福島県知事選から読み解く内堀県政の展望
医療ジャーナリスト
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1967年福島県生まれ。1990年千葉大学文学部行動科学科卒業。同年福島民友新聞社入社。マイアミ大学医学部移植外科、フィリピン大学哲学科などの客員研究員、国会議員公設秘書を経て、2011年よりフリー。
東京大学の研究グループは4月10日、福島県内で3万人あまりを対象に実施した内部被曝調査の結果を発表したが、福島県内ではこの発表に対する報道は大きく分かれた。
これは東京大学大学院の早野龍五教授(物理学)らの研究グループが発表したもので、福島県平田村のひらた中央病院で3万2,811人の大人と子どもと、福島県三春町の小中学校の児童生徒1,383人を対象に実施されたしたホールボディカウンター(内部被曝測定機器)による測定結果をまとめたもの。
検査をしたほぼすべての人で数値が測定機器の検出限界値を下回ったことから、共同、福島民報、日経などは「子どもの被ばく『ゼロ』」、毎日は「セシウム検出されず」と、調査対象から機器の検出限界を超える内部被曝者が一人も出なかった点を強調して報じた。また、朝日、読売、東京は測定を受けた人の中で、地元で採れる天然のキノコや野生のイノシシを食べた人たちに例外的に1キロあたり100ベクレル(全身では数千ベクレルになる)がいたことから、「99%出ず」、「内部被曝1%」、「内部被ばく極小」などの見出しを掲げた。地元の福島民友だけが、「チェルノブイリの水準下回る」の見出しだった。
今回の研究グループの発表では、福島における内部被曝のレベルは、 チェルノブイリ原発事故における土壌汚染と内部被曝の相関関係を元に行われた推定値よりも低いことが分かったことが強調されていた。同時に2012年秋に三春町の小中学校の児童生徒1383人を対象に調べたところ、全員が検出限界未満だったこと、2012年5月以降に受診した10237人のうち、全身で300ベクレルを超えた人がいなかったことなどが報告されていた。また、例外的な事例として、天然のキノコや野生のイノシシを食べた人たちの中に全身で数千ベクレルを超えた人たちがいたことが報告されていた。報道では各紙それぞれがどこに着目するかによって見出しが分かれた格好となった。
この論文に対して、市民と科学者の内部被曝問題研究会代表、沢田昭二名古屋大名誉教授は「調査の対象となった子どもたちは三春町で、この地域は福島市や郡山市、浜通りの自治体と比べても汚染が低い地域。この論文で福島県全域が同様の結果であるというような理解は早計。重要なのは、より原発に近い地域や高濃度汚染地域、福島市、郡山市などの住民の測定だ。引き続き内部被曝を防ぐ対策として、汚染された食品を食べないようにすることが必要」と話している。
早野論文は日本学士院紀要に掲載され、今夏のUNSCEAR[原子放射線の影響に関する国連科学委員会]レポートで参照される予定というが、研究論文の結果が今後どのように政策決定に反映されるのか、あるいはされないのか注視していく必要がある。少なくとも、県民や被災者が希望し、内部被曝低減のために必要な食品の測定の継続や県民の健康管理の充実、除染事業の実施などについて、安易な予算の削除あるいは事業打ち切りなどの根拠にならないようにしなければならない。
医療ジャーナリストの藍原寛子氏がレポートする。