2013年02月23日公開

新たに2人の子どもに甲状腺がん見つかる・県民の健康情報は誰のものなのか

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ゲスト

1967年福島県生まれ。1990年千葉大学文学部行動科学科卒業。同年福島民友新聞社入社。マイアミ大学医学部移植外科、フィリピン大学哲学科などの客員研究員、国会議員公設秘書を経て、2011年よりフリー。

司会

概要

 東電福島第1原発事故の影響を調べる福島県民健康管理調査検討会が2月13日、福島市で開かれ、18歳以下の子どもを対象に平成23年度に実施した甲状腺検査の第2次検査の結果が発表された。それによると、甲状腺がんと診断された子どもが新たに2人、甲状腺がんの疑いの子どもが7人あることがわかった。これまでの発表と合わせると、がんが3人、疑いが7人、合計10人の子どもの甲状腺に重大な異常が見つかったことになる。
子どもの甲状腺がんは、100万人に1人ないしは2人という極めてまれな病気だが、検査を受けた子どもの人数は38,114人(おもに原発に近い地域の居住者)。3人ががんと診断されたことは約12,000人に1人とかなり高い割合に上った。
この割合について、検討会座長の山下俊一福島県立医大副学長、委員の鈴木眞一・同大教授らは、会議や記者会見の中で、原発事故との因果関係について否定的な見解を示した。その理由として?甲状腺がんの進行は遅く、少なくても5〜7年後であり、いま発見された腫瘍は原発事故前からできていた可能性がある?疑いを含めた10人に地域的な偏りがない(ある市町村に集中しているわけではない)?検査機器の精度が以前より高くなったため、従来なら後年に発見されていたがんが前倒しで(=早期に)発見された—などを挙げた。
しかし、10人が住んでいた地域の福島第一原発からの距離や推定被曝量などの情報は、「プライバシーの保護」(鈴木教授)を理由に開示されなかった。このため、両教授の見解に対する客観的な検証は事実上進んでいない。
ドイツでは2008年、稼動中の原発周辺で小児がんが増加しているという結果をまとめたKiKK(キック)スタディが報告され、政府もその結果を認めたことにより、社会的に脱原発の機運が盛り上がった背景がある。仮に今回の原発事故と10人の診断結果との間に因果関係はないとするなら、福島県民は子どもたちが原発からの恒常的な放射線等の影響を受ける環境にあったのかどうかを知る権利はあると考えられる。
山下教授らは1995年、甲状腺の学術専門誌『Thyroid』の中で共同研究を発表、1986年のチェルノブイリ原発事故時10才以下だった原発周辺の約5万人の子どもたちを対象に、事故後5〜7年後に甲状腺超音波検査を行った結果、平均して1.4万人に1人、高汚染地域では4500人に1人の甲状腺がんが見つかったと発表した。原発事故から5年後でも、子どもの甲状腺がんの患者数が増えていたほか、持続的低線量被曝による子どもの甲状腺傷害の可能性についても言及している。
それだけに、記者会見では、第三者による検証を可能にするための情報開示を求める質問が相次いだが、鈴木教授らは発表できる範囲について明確な基準を説明しなかったことから、調査の客観性、再現性について疑問を残す結果にもなった。
もともと県が実施する調査では限界があるのではないか、という議論がある。子どもの将来を考えると、甲状腺検査は長期的で継続的な調査が必要だ。205万人の福島県民を対象にした調査を含めて、予算や人員が十分に確保し続けられるのか、心配する声もある。
さらに県民健康管理調査では、調査票作成者、調査票回収者、調査データ管理者、結果解析者が、県の委託を受けた福島県立医科大学に一元化されている。同大学の負担が大きくなっていると同時に、調査としての客観性が見えにくいという問題も指摘されている。
福島県立医科大学以外の国内外の研究者も、同じ基礎データを使ってさまざまな解析手法により多角的に分析できれば、原発事故後の福島県の子どもたちの身体にいったい今何が起きているのかを立体的に迫ることができる。しかし、いまのままでは、グローバル・スタンダードにマッチしない独自の調査になってしまう可能性もある。
子どもの甲状腺がんと県民健康管理調査の問題について、医療ジャーナリストの藍原寛子氏と神保哲生が議論した。

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