マグロを食べ続けたければ資源量の正確な把握が不可欠
一般社団法人オーシャン・ガバナンス研究所総括研究主幹/代表理事
1969年大阪府生まれ。93年神戸大学法学部卒業。2003年同大学大学院国際協力研究科博士後期課程修了。博士(政治学)。法政大学大原社会問題研究所客員研究員、早稲田大学日米研究機構(15年より地域・地域間研究機構に改組)客員講師などを経て2017年より現職。共著に『クジラコンプレックス 捕鯨裁判の勝者はだれか』など。
環境問題をテーマにお送りするセーブアース。第4回は漁業資源の問題を取り上げる。
乱獲状態にある資源の割合は、1974年には10%だったが2017年には34.2%まで上昇した。これは世界の漁業資源の三分の一が危機的な状況に置かれていることを意味している。とりわけ日本沿海の状況が深刻で、半分以上の漁業資源の状態が悪化していると言われる。
資源管理のための国際交渉や締約国会議などに参加してきた早稲田大学客員准教授の真田康弘氏は、漁業資源減少により経済的に苦しめられている漁業者は漁獲量を制限する規制の導入に後ろ向きな傾向があるとした上で、一度資源が枯渇し始めると小さくなったパイを奪い合う悪循環が生じ、ますます管理が進まなくなってしまう現状を指摘する。
例えば近年、漁獲量が激減しているサンマは、過去数十年にわたり日本が大量に捕獲してきたことに加え、近年になって中国や台湾の漁獲量も増えてきたため、乱獲状態にあった。しかし現在の漁獲制限は実際の漁獲量よりも大きく設定されているため、制限として意味をなしていない。結果的に獲り放題の状況が今も続いている。
しかし、漁獲量の制限は長期的に資源が回復すれば漁業者にとっても恩恵をもたらす。そのためには実際の成功例を増やすことで、漁業者に資源を保全することのメリットを理解させることが必要だ。例えば日本でも馴染みがあるノルウェーの鯖は、漁業管理の成功により丸々と太り市場価値を上げている。漁業管理は漁業者や消費者にとっても、また持続可能な漁業にとってもメリットとなるのだ。実際に日本でも漁業法の改正や漁獲量の国際基準であるMSY(最大持続生産量)の導入などが進められている。
また違法・無規制・無報告をさすIUU(Illegal, Unregurated, Unreported)漁業の問題も深刻である。SDGsのターゲットにも指定されているIUU漁業は年間230億ドルの損失をもたらすと言われる。これは世界の漁業量の約五分の一に当たり、われわれが日々スーパーで購入する魚のなかにも高い確率で含まれている。中でも日本で人気のあるウナギはIUUリスクが最も高い種の一つだ。ウナギは完全養殖できないため幼魚を河川で捕獲する必要があるが、その際に非正規ルートに乗ったり暴力団などの犯罪組織の資金源になるケースも存在する。また香港などの中継国を介して規制が厳しいはずの台湾の幼魚が不正に輸入されていたりと問題が多い。
違法な漁業を根絶するためには、近年日本の大手スーパーの商品にも見られるようになってきているASCやMSCなどの認証ラベルが貼られた商品を消費者が意識的に購入するなどが有効だ。今、漁業に何が起きているのか、漁業の持続性を維持するために何をしなければならないかなどを真田氏とジャーナリストの井田徹治が議論した。