プラスチック汚染対策をレジ袋有料化で終わらせないために
東京農工大学大学院農学研究院環境資源科学科教授
1959年東京都生まれ。82年東京都立大学理学部卒業。86年同大学院理学研究科化学専攻博士課程中退。博士(理学)。東京農工大学農学部助手、助教授などを経て2007年より現職。共著に『環境汚染化学』、『環境ホルモン 水産生物に対する影響実態と作用機構』など。
環境問題をテーマにお送りするセーブアース。第3回目のテーマは地球の生態系の大きな脅威となっているプラスチックごみ問題を取り上げる。
日本のプラスチック包装の排出量は一人当たり年間40kg。これはアメリカに次いで世界2番目に多い量だ。日本はれっきとしたプラスチック消費大国だ。
環境中に排出される有害物質の専門家で、長年プラスチック汚染の問題に取り組んできた東京農工大学の高田秀重氏は、これまでは水鳥や魚などによる誤飲に焦点が当たることが多かったが、近年では新たにプラスチックに含まれる添加剤が問題視されるようになってきたと指摘する。
添加剤とはプラスチックのポリマー鎖を安定させるために含まれる、可塑剤や酸化防止剤、難燃剤などの化学物質のことだ。この添加剤が、プラスチックが紫外線などの刺激にさらされて微細化したり、生物の体内に取り込まれる過程で漏出し、生態系に深刻な影響を与えているというのだ。微細化したマイクロプラスチックが、例えば魚の体内に取り込まれると、添加剤として使われているさまざまな化学物質が魚の脂肪や筋肉、肝臓などに蓄積されるため、それを食べる人間にも影響を与える。数千種類にも及ぶ添加剤の中には、いわゆる「環境ホルモン」として性や生殖、成長に影響を及ぼすほか、免疫系や神経系との関係も指摘されている。例えば環境省が約10万人を追跡調査したところ、週1回のペースで市販される弁当や冷凍食品を摂取した妊婦の死産や流産の可能性が高くなるというショッキングなデータも明らかになっている。高田氏は電子レンジで温める際にプラスチック容器から溶け出る添加剤に原因があるという。
しかしプラスチック製品には表示義務がないため、消費者はどのような添加剤が含まれているのか知りようがない。そのため、透明性が担保されない以上はプラスチックの使用自体を減らしていこうとする流れが国際的には形成されてきている。まずはプラスチックが持つ潜在的なリスクを認識し、予防的な観点から対策を検討することが必要である。
加えて高田氏はいわば「リサイクル神話」とでもいうべき状況にも問題があると指摘する。日本ではごみの分別意識は非常に高い。しかし回収後の処理方法に目を向けると、実際に素材自体をリサイクルする「マテリアルリサイクル」は一度原料に変えた上で活用する「ケミカルリサイクル」を加えても24%にとどまり、残りはプラスチックを焼却する際のエネルギーを再利用する「熱回収」と、単純焼却や埋め立てによって処理されているのが実情だ。これではCO2の排出量を増やすことになる。
リサイクルそのものに一定の限界がある以上、むしろプラスチックの生産を積極的に減少させる「リデュース」を進めるべきだと高田氏は言う。そのためには企業にそのインセンティブを与える政策を打ち出すと同時に、消費者が自然由来の代替手段を考えていくことも求められる。
プラスチックごみ問題と、プラスチックに含まれる添加剤やリサイクルの問題などについて、高田氏とジャーナリストの井田徹治が議論した。