世界の潮流に逆行する日本のエネルギー政策の現状
自然エネルギー財団シニアマネージャー
1972年広島県生まれ。96年慶應義塾大学総合政策学部卒業。2012年東京大学新領域創成科学研究科博士課程修了。博士(環境学)。日本エネルギー経済研究所、地球環境産業技術研究機構(RITE)、科学技術振興機構低炭素社会戦略センター、CDP(旧カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)などを経て23年より自然エネルギー財団シニアコーディネーター。24年より現職。
日本は再生可能エネルギーで将来の電力需要の大半を賄うことは可能なのか。
現在、第7次エネルギー基本計画の策定に向けて経産省の有識者会議(総合資源エネルギー調査会)で議論が行われているが、そこでは2040年度の電源構成の目標をどう定めるかが大きな論点となっている。エネルギー基本計画は国のエネルギー政策の基本方針を示すもので、3年ごとに改定される。政府は改定案の年内取りまとめを目指している。
自然エネルギー財団は2024年6月に発表した「脱炭素へのエネルギー転換シナリオ」の中で、2035年の電力供給の80%を再生可能エネルギー(以下再エネ)で賄うことが可能であるとして、その具体的なシナリオを示している。そこで今回は自然エネルギー財団の高瀬香絵シニアマネージャーに、このレポートの根拠となる再エネの可能性について話を聞いた。
将来の電力需要は今後進むであろう産業の電化やデータセンターの増加に、省エネの促進などを加味して割り出す。その上でこのレポートは、仮にその80%を再エネで安定的に賄うためには、どのような供給設備が必要になるかを検討している。
今後、AIの普及で新たなデータセンターや半導体工場が必要になり、自ずと電力需要が増すことが予想される。その需要を再エネだけで満たすことは到底不可能で、だから日本は将来にわたり原発を維持する必要があるとの議論がある。しかし、GAFAMなどIT大手やインテルなどの半導体メーカーの多くは、全ての消費電力を再エネで賄う目標を掲げており、データセンターを建設する際は再エネの確保も同時に行っている。実際にグーグルなどはすでに再エネ100%の達成を宣言している。
では、2035年の電力供給の80%を再エネで賄うには、どのような設備が必要になるか。高瀬氏は2022年比で3.3倍の蓄電池と発電設備があれば、それが可能になると言う。太陽光発電は電源としては不安定との批判があるが、蓄電池と組み合わせれば安定した電力供給が可能になると高瀬氏は言う。
それに加えて、エリア間で電力を融通し合うための系統の連結も大幅な増強が必要になるが、これらにかかるコストを加えても、再エネの発電コストが劇的に下がっていることから、全体の発電コストはウクライナ戦争以前と同じ程度に抑えられると高瀬氏は言う。
ウクライナ戦争で石油価格が上昇し、国内のエネルギーコストが高騰した。エネルギーの安定供給という観点からも、国内で全て賄うことのできる再エネの比率を上げていくことのメリットは大きいと高瀬氏は言う。
G7は2035年までに電力部門の全部ないし大部分を脱炭素化することで合意している。また、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が2023年に発表した第6次統合報告書は、産業革命以後の気温上昇を1.5℃の枠内に収めるためには、温室効果ガスの排出量を2035年までに65%削減することが必要だとしている。日本は再エネのシェアを80%まで引き上げることによって、電力需要を満たしつつ、二酸化炭素の排出量を2019年比で65%(2013年比では72%)削減することは十分に可能だと高瀬氏は言う。
日本は将来の電力需要の増加を再エネで満たすことができるのか。それを実現するためには何が必要なのか。自然エネルギー財団シニアマネージャーの高瀬香絵氏と環境ジャーナリストの井田徹治、キャスターの新井麻希が議論した。