安価に魚が買える背景にある人権を無視した漁業の存在を知ってほしい
WWFジャパン自然保護室海洋水産グループ パブリック・アウトリーチオフィサー
1969年大阪府生まれ。93年神戸大学法学部卒業。2003年同大学大学院国際協力研究科博士後期課程修了。博士(政治学)。法政大学大原社会問題研究所客員研究員、早稲田大学地域・地域間研究機構客員主任研究員などを経て2024年より現職。学習院大学法学部客員研究員を兼務。共著に『クジラコンプレックス 捕鯨裁判の勝者はだれか』など。
第24回のセーブアースは、2024年7月に釧路で開催された太平洋クロマグロの資源管理のための国際会議に出席したオーシャン・ガバナンス研究所代表理事の真田康弘氏をゲストに迎え、クロマグロの漁獲規制をめぐる状況について議論した。
今回開催された太平洋西部のマグロ漁を統括するWCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)の北小委員会と、太平洋東部のマグロ漁を統括するIATTC(全米熱帯まぐろ類委員会)の合同作業部会では、マグロの資源量が回復したとして3年ぶりに太平洋クロマグロの漁獲枠を増やすことが合意された。資源量が回復し漁獲枠が拡大されること自体は歓迎すべきことだ。しかし、実際は懸念材料もある。マグロの資源量のデータが必ずしも正確とは考えられない理由があるからだ。
マグロの消費量は世界的に増大しているが、とりわけ日本はクロマグロ、ミナミマグロの消費量が多い。クロマグロは大西洋クロマグロと太平洋クロマグロに分かれるが、日本は太平洋クロマグロに関しては漁獲と養殖で多くを賄う一方で、大西洋クロマグロに関しては輸入量が圧倒的に多い。
クロマグロは2010年代前半に相次いで絶滅危惧種に指定されたが、日本の大量消費がその一因とされた。大西洋クロマグロについては2010年に漁獲量を管理するICCAT(大西洋まぐろ類保存国際員会)で厳しい漁獲量の規制が導入されたことで、現在は資源量は回復傾向にあるという。
一方、太平洋クロマグロは、2013年ごろに資源量が過去最低レベルに落ち込んだため、2014年に絶滅危惧種に指定され、2017年には初期資源量の2.6%まで激減した太平洋クロマグロの資源量を20%まで引き上げる目標が設定された。その後、急速な資源量の回復が見られたとされ、今回釧路で行われた会議では漁獲枠を30kg未満の小型魚については1.1倍に、30kg以上の大型魚については1.5倍に拡大することが合意された。大西洋クロマグロも太平洋クロマグロも、2021年に絶滅危惧種の指定を外されている。
問題はそこで採用されている資源量のデータが必ずしも正確ではない可能性があることだ。
マグロの資源量は漁獲高から導かれる。資源調査のためだけに船を出せれば理想的だが、それではコストがかかりすぎるため、ISC(北太平洋まぐろ類国際科学委員会)が各国から報告された漁獲高に基づいてマグロの資源量を推計している。マグロはルールに違反した捕獲が横行しているとの指摘があり、ルール違反の漁獲高は当然報告されていないと考えられる。そのため、不正確な漁獲高データに基づいて割り出された資源量も不正確なものである可能性が否定できない。
実際、2022年には、青森県大間町でマグロの漁獲高の一部を県に報告しなかったとして2人が逮捕されているが、違法なマグロ漁の漁獲高の規模は正確にはわかっていない。
大間の事件はまた、ルールに則った漁業を行うためには監視のメカニズムが整備される必要があることを示している。水産庁にはマグロの総漁獲量しか報告されないので、実際に市場に流通する個々のマグロが水産庁に正しく報告されたものかどうかを確認する方法が事実上ないからだ。これではせっかく国際的にクロマグロの漁獲枠を定めても、大間事件のように違法に漁獲枠を超えて獲られたマグロの大量流通が野放しになってしまう。一般社団法人オーシャン・ガバナンス研究所総括研究主幹の真田康弘氏は、日本には監視のメカニズムがほぼ皆無なのが現状だという。
クロマグロの資源量と規制は現在どのようになっているのか。マグロの資源量は本当に回復しているのか。資源を守りながら持続的にクロマグロを消費していくために、どのような仕組みが必要で、消費者であるわれわれには何ができるのか。真田康弘氏と環境ジャーナリストの井田徹治、キャスターの新井麻希が議論した。