当たり前な学習環境を実現するためには学校の断熱改修が急務だ
東京大学大学院工学系研究科准教授
1975年広島県生まれ。98年東京大学工学部卒業。2003年同大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程修了。博士(工学)。独立行政法人建築研究所研究員、東京大学大学院東京電力寄付講座客員助教授などを経て08年より現職。著書に『エコハウスのウソ』など。
地球環境に関わる諸問題を掘り下げるセーブアース。第22回の今回は日本の住宅問題を扱う。
グテーレス国連事務総長が「地球沸騰化」とまで言う現代。国内だけでも最高気温は大幅に上昇し、猛暑日の日数も増え続けている。地球温暖化への対応が急務であることは論を俟たないが、そうした中で、日本では見落とされがちな対策がある。それが住宅の断熱性だ。
住宅の断熱性を向上させれば、冷暖房に使われるエネルギーを大きく節約することができる。しかし、近年まで極端な気温の上昇がなかった日本では、風通しを良くすることを重視した夏棟住宅が多く建設されてきた。風通しの良い夏棟住宅は気密性が低いため、自ずと冷暖房の使用量が多くなってしまう。
住宅環境が専門で断熱に詳しい前真之東京大学准教授は、省エネに効果のある技術として、「断熱・気密」、「高効率設備」、「太陽エネルギーの活用」の3つを挙げ、日本は高効率設備に熱心な分、断熱・気密と太陽エネルギーの活用が疎かになってきたと指摘する。
2025年度から住宅を建設する際の断熱・気密対策の義務づけが始まることになったが、義務づけられている基準はまだ非常に緩いものだと前氏は言う。現在の基準は2030年度までに引き上げられる見込みだが、その水準でもまだ不十分だと前氏は言う。
太陽エネルギーの活用については、東日本大震災後に再生可能エネルギーの有利な価格での買取りを義務付ける固定価格買い取り制度(FIT)が始まった。2011年当初は、バブルと言ってもいいほど太陽エネルギーの発電量が急増したが、その後買い取り価格の低下とともに発電量は伸び悩んでいる。
そもそもこれら3つの技術は、相互に組み合わせることによって省エネルギーが実現できるものだ。また、それが実現できれば、住宅としてもより快適なものとなる。
環境に優しく快適な生活を送ることのできる住宅とはどのようなものか、そしてそれをどのように普及させていくのか。前真之氏と環境ジャーナリストの井田徹治、キャスターの新井麻希が議論した。