既得権益温存のために歪められる日本のエネルギー政策
自然エネルギー財団事業局長
1964年大分県生まれ。92年原子力資料情報室、2000年環境エネルギー政策研究所副所長、09年駐日英国大使館気候変動政策アドバイザーなどを経て、10年より国際再生可能エネルギー機関(IRENA)のシナリオ&政策・アジアパシフィック地域マネージャー。11年より現職。
地球環境問題を扱うセーブアースでは、自然エネルギー財団事業局長の大林ミカ氏をゲストに招き、日本のエネルギー政策の課題を2回シリーズで議論した。第1回目の今回は太陽光、風力、バイオマス、地熱などの再生可能エネルギーの日本の現状と、日本が世界から遅れを取っている現状を検証した。
国内に化石燃料の資源を持たない日本は現在、第一次エネルギーの9割を輸入に依存している。そのため、国際市場で石油価格が急騰したり、主な輸入元である湾岸地域の政情が不安定化すると、ガソリン代や電気代はもとより国内のほぼすべての商品が値上げを強いられることになる。その一方で、太陽光や風力など自然のエネルギー源を利用する再エネは、国内で調達が可能なため、エネルギー安全保障上もメリットが大きく、そしてもちろんCO2などの温室効果ガスを発生させないため、目下人類の喫緊の課題となっている地球温暖化の防止にも寄与するという特徴を持つ。
実際、ロシアによるウクライナ侵攻以降、自然エネルギー設備の設置が加速しているのは、再エネのエネルギー安全保障上のメリットが強く意識されたからに他ならない。また、何よりも近年、風力と太陽光発電の発電コストが飛躍的に安くなり、化石燃料や原子力を大きく下回るようになった。現在、先進国が新たに設置する発電設備の91%が太陽光と風力となっている。
世界市場全体の電力発電量に占める再エネのシェアは約29%まで上昇しているが、日本における再エネのシェアは依然として約20%にとどまっており、ドイツやイギリスが40%台まで伸ばしているのと比べ、日本は世界から遅れをとっている状態にある。
これまで日本の再エネ市場は太陽光発電が牽引してきた。太陽光発電の発電量だけを見ると日本のそれは他の再エネ先進国と比べても見劣りしない。しかし、大林氏は、日本の太陽光発電はまだまだポテンシャルを生かし切れていないと語る。近年太陽光の発電コストが非常に安くなり、太陽光パネルの価格も低下している。大林氏は太陽光の発電単価が22年には1kWhあたり20円まで低下する中で、年間平均電気料金は1kWhあたり33円もするため、固定価格買い取り制度(FIT)の下での買い取り価格が当初の半分以下にさがった今でも、住宅で太陽光発電を導入するメリットは十分に大きいと指摘する。
また他の多くの国で再エネ市場を牽引している風力発電が、日本では大きく遅れを取っている。太陽光が80GW分の発電設備容量を有しているのに比較して風力は未だ5GWにとどまる。施設を設置する上で義務づけられている環境影響評価(環境アセスメント)の期間が長すぎることなどの課題が指摘されているが、日本が再エネのシェアを増やすためには、洋上風力も含め導入を加速させていく必要がある。
日本が本来のポテンシャルに対して再エネの導入が進んでいない理由として、大林氏は系統の整備が遅れている点を問題視する。遅れの根本的な原因は日本の垂直統合型の電力システムであり、今後日本が再エネのシェアを本格的に増やしていくためには、システム改革は避けて通れない。そのためには国の政策をドラスティックに変える必要があると語る大林氏と環境ジャーナリストの井田徹治が議論した。