プラスチックごみ問題と添加剤による化学物質汚染
東京農工大学農学部教授
1994年京都府生まれ。2016年神戸大学法学部卒業。18年ルンド大学大学院修士課程修了。15年持続可能な社会に向けたジャパンユースプラットフォーム設立、16年子どもと若者の国連メジャーグループ国際コーディネーター、18年地球環境戦略研究機関(IGES)政策研究員、20年国連アジア太平洋経済社会委員会(UN-ESCAP)プログラム・マネジメント・コンサルタントを経て、22年より現職。
第13回のセーブアースではプラスチック問題を再び取り上げ、来月にも第3回が開催される国際的なプラスチック条約締結のためのINC(政府間交渉委員会)の動きと日本が果たすべき役割や、生活に身近なレベルでのプラスチック削減の取り組みなどについて議論した。
全世界のプラスチックの生産量は1950年から2017年までの間に累積で92億トンにものぼり、このうちリサイクルされたプラスチックはわずか7億トンにとどまる。累積生産量は指数関数的に増え続けると予想されており、2050年までに340億トンになるという。現時点でわずか7%しかカバーしていないリサイクルで、増え続ける生産量の問題を解決することができないことは目に見えていると、グリーンピース・ジャパンで政策渉外担当シニアオフィサーを務める小池宏隆氏はいう。
プラスチック問題を解決するためにはリデュース(削減)が最も重要であり、2040年までに使い捨てプラスチックはゼロにしなければいけないという状況の中で、日常生活で使い捨てプラスチックが多く使用される場所の一つとしてカフェでの飲料容器があげられる。グリーンピースが日本の主要なカフェチェーンを対象にした2021年の調査では、店舗数が最も多いスターバックスの使い捨てカップの数が圧倒的に多く、実に年間2億個以上が使用されており、タリーズやプロント、ドトールなどの他のチェーンの合計を上回っていた。さらにスターバックスの店内利用カップのリユース率も8%と、本来プラスチックカップを使う必要がない状況でも使い捨てカップが使用されていることがわかったという。
その一方で、同じくグリーンピースによる意識調査では、店内利用では6割の人が使い捨てカップをいつも使っているとしながらも、8割近くの人が使い捨てカップの利用を減らすべきだと答えている。小池氏はそもそも店側が店内利用の際にはリユースカップを標準として提供することとし、使い捨てカップは希望する人のみに提供するような形に変更すべきだという。スターバックスではグリーンピースの21年の調査の後、リユースの割合を増やしたため、23年に行われた150店舗を対象とする調査では、店内リユース率が41%に改善したという。
国際的にはプラスチック規制に向けた取り組みが進んでいる。2022年3月には国連環境総会でプラスチック条約を制定することが合意され、25年の締結を目指して各国が交渉を行うためのINC(政府間交渉委員会)が設置された。これまで2回の会議がウルグアイとフランスで開かれ、11月にはケニアで第3回の開催が予定されているが、小池氏はこれまでのところINCは採択の合意方法についての議論に時間をとられてしまい、残すところあと3回の会議で実効性のある条約を締結できるかは、現時点では見通せないという。
そうした中、日本が2025年の条約採択会議のホスト国として立候補する可能性が浮上している。現在エクアドルやルワンダなどの国が候補に並ぶが、日本でも自民党の議連で誘致に向けた動きが見られるという。しかし、そもそも今の日本にプラスチックを削減する意思を内外にアピールするだけの高い意識があるのだろうか。
小池氏は今年のG7に先立って行われた札幌でのG7気候・エネルギー・環境大臣会合で、すべての環境中のプラ汚染をゼロにすると合意されたにもかかわらず、広島のG7では海外の記者なども出入りするメディアセンターで相変わずプラスチックカップが当たり前のように使用されていたことを指摘した上で、日本政府には日本が海外からどのように見られているかに対する意識が希薄だと語る。曲がりなりにもプラスチックを規制する条約会議のホスト国を目指すのであれば内外に向けて削減の意思を明確に示すことが重要であると語る小池氏と、環境ジャーナリストの井田徹治が議論した。