小規模事業者やフリーランスを軒並み廃業に追い込むインボイス制度に正当性はあるのか
弁護士、青山学院大学名誉教授
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税理士やフリーランスの声優などが2023年6月22日、日本外国特派員協会で記者会見し、今年10月に予定されるインボイス制度導入の中止を求めた。
会見を行ったのは、アニメプロデューサーの植田益朗氏と声優の岡本麻弥氏、アニメーターの西位輝実氏、元静岡大学教授で税理士の湖東京至氏の4人。
日本ではこれまで年間の売上が1,000万円に満たない小規模な事業者や個人で活動しているフリーランスは、売上にかかる消費税の支払いが免除されてきた。ここには正しく消費税を納めるために必要となる帳簿管理の事務負担から小規模事業者を解放するという意味と、売上が少ない事業者の負担が相対的に重くなる消費税が持つ逆進性の性格を緩和する意味とが含まれていた。しかし、10月にインボイス制度が導入されると、これまで免税だった年間売上が1,000万円以下の小規模事業者も、インボイスを発行するためにTコード(タックス・コード)と呼ばれる登録番号を取得して納税事業者になるか、取引先から仕事を受注をする上で不利な立場になることを承知の上で免税事業者にとどまるかの二者択一を求められることになる。
これまで消費税を免除されてきた免税事業者が課税事業者になれば、単純に消費税負担分だけ支出が増えることになる。売上規模が1,000万円以下の小規模事業者やフリーランスにとっては、10%の消費税負担は死活問題になる場合も多いだろう。しかし、その一方で免税事業者にとどまった場合、その事業者は消費税を納めたことの証明となるインボイスを発行することができないため、取引先はその事業者との取引で生じた消費税を自身が納める消費税から控除できなくなる。つまり10月1日以降は、取引先としては免税事業者との取引は事実上10%の値上げと同じことになり、課税事業者と取引した方が有利になってしまうのだ。
声優の岡本麻弥氏は、課税事業者になるか取引上不利になることを覚悟の上で免税事業者のままでいるかの二者択一を迫られる中、どちらを選んでも窮地に立たされることに変わりはないと語った。
『機動戦士ガンダム』シリーズのプロデューサーなどを務めた経歴を持つアニメーターで株式会社スカイフォール代表の植田益朗氏は、インボイス制度を「免税事業者、課税事業者、消費者の3者のうち誰かが必ず増税分を負担することになる、税率変更を伴わないステルス増税」だとして、これを厳しく批判した。
また税理士の湖東京至氏は、世界標準となっている納税者権利憲章が日本ではいまだに制定されていないという問題を改めて指摘し、インボイスの導入よりも「基本的人権を侵害するような税務行政が行われないようにすることが先ではないか」とした。また、大企業に有利な輸出時の消費税の還付制度を維持するためにこそインボイス制度を導入しようとしているのではないかとの見方を示した。