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2024年09月28日公開

自民党総裁選・暗躍する派閥の論理と長老支配を乗り越えた石破氏勝利の意味

ポリティコ ポリティコ (第30回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2024年12月28日23時59分
(あと83日14時間50分)

概要

 今回の自民党総裁選は初の派閥なき選挙になるはずだった。派閥が解消したおかげで若手を含む9人もの立候補が可能になり、自民党は生まれ変わったのだ、などと自画自賛する自民党議員も少なくなかった。

 ところが蓋を開けてみると、逆に多くの候補者が乱立した結果、党員票が議員票と同じ比重を占める1回目の投票では誰も過半数に届かず、結局は議員票が勝者を決する決選投票で派閥の論理が大手を振って物を言う、これまでと何も変わらない選挙になってしまった。

 いや本来ならばそうなっていたはずだった。ところが実際の選挙では、予想外の事が起きた。

 元々小泉進次郎氏は菅元首相が擁立し、全面的にサポートしていた。菅氏は無派閥だが安倍政権で8年もの長きにわたり官房長官を務め、その後総理にまで登りつめた自民党の重鎮中の重鎮だ。首相としては不本意な形で僅か1年で退陣に追い込まれた後、しばらくは党内非主流派の立場に甘んじていたが、官房長官時代に菅氏の恩を受けた数多くの議員たちと連携しながら、捲土重来の機会を虎視眈々と狙っていた。一応身分は無派閥だが、「無派閥という名の大派閥」の領袖といってもいいほど多くの議員票を動かす影響力を誇り、しかも安倍派の萩生田光一氏や二階派の武田良太氏ら大派閥の重鎮を手足のように使える立場にいた。更に今回は森元首相とも連携しながらその影響力を駆使して、小泉進次郎氏を首相に担ぎ上げ、主流派への復帰を図ろうとしていた。

 主流派というのは与党内にあって実際の権力を持つ側のことだ。権力を手にすれば利権も手にすることができるし、人も大勢寄ってくる。政治とは元来そういうものだ。

 当初、イケメンで爽やかな弁が立ち、何と言っても43歳の若さを武器とする小泉氏は、統一教会問題や裏金問題で傷ついた自民党のイメージを刷新するのに最高の候補に見えた。実際に世論調査でもそれまで総理候補の不動のナンバーワンだった石破氏の上を行くようになった。

 石破陣営では正直のところ進次郎人気に太刀打ちするのは厳しいだろうとの見方も出ていた。

 しかし、そんな状況を根底から変える出来事が2つ起きた。

 1つがPR会社や宣伝のプロまで入れて綿密なPR戦略を練り込んでいた小泉氏のパフォーマンスの底浅さが予想外に早く露呈してしまい、選挙戦の途中で一気に進次郎人気が失速したことだ。森氏や菅氏、そして萩生田氏や武田氏の多数派工作で議員票では相変わらずトップを行く勢いを維持してきた進次郎氏だったが、世論調査での支持率は急落し、党員票の予想も石破氏の後塵を拝するようになっていった。

 もう1つのハプニングが高市早苗氏の劇的な追い上げだった。特に党員票予想で高市氏は小泉氏を抜き、石破氏に迫ろうかというところまで急進した。その背景としては、高市氏が岸田首相が退陣を表明する遥か以前から、それを見越して総裁選に備えて党員への働きかけを行ってきたことや、小泉、石破両氏のいずれかが政権を取れば安倍政治の流れが断ち切られることに危機感を抱いた安倍元首相の支持層が、安倍政治の正統な継承者としての高市氏の下に結集したなどの見方があるが、いずれにしても高市氏の支持が急進し、石破、高市の2強体制に少し遅れて小泉氏という構図が選挙戦の後半には定着していった。

 そこで総裁選の前日になって、石破政権の発足だけは何が何でも阻止したい麻生太郎氏が動いた。言うまでもないが麻生派は自派閥からは河野太郎氏を擁立していたが、河野氏の支持は低迷していた。河野氏で勝てる見込みがなくなり、小泉氏に後出しで乗っかってみても、菅氏の川下に立つことになる。かといって石破だけはいやだ。そう考えた麻生氏は、唯一派閥を解散せず温存してきた自派閥の議員たちに、1回目から高市氏に投票するよう指示を出したことが報じられた。

 石破陣営としては、決選投票で小泉氏との一騎打ちになれば石破氏が劣勢と見ていた。つまり石破陣営にとっての最悪のシナリオは、麻生氏が自派閥の議員に小泉支持を命ずることだった。そうすれば党員人気が落ちたとは言え、菅氏らが集めた議員票と麻生派の議員票で小泉氏は間違いなく決選投票に残り、決選投票でも石破氏に勝っていた可能性が高い。

 しかし、麻生氏が高市支持を打ち出したことで、状況が根底から変わった。高市対石破の一騎打ちになれば、石破氏にも勝機はあると石破陣営は見ていたからだ。

 投票の結果、恐らく麻生派からの手厚い議員票と僅かながら石破氏を凌ぐ党員票で高市氏は1回目投票を1位通過。2位には少ない議員票ながら多くの党員票に支えられた石破氏が入った。小泉氏は議員票こそもっとも多く集めたが、党員票が高市、石破と比べると圧倒的に少なく3位に沈んだ。

 石破陣営が高市対石破の決選投票になれば、石破にも勝機があると見ていたのには明確な理由があった。

 首相になれば靖国参拝を明言するなど、高市氏は党内切っての保守派で、政策や理念では穏健な岸田派(宏池会)や茂木派(旧経世会)とは相容れない。その一方で国民的人気という意味では、小泉氏や石破氏と比べると大きく見劣りする。間もなく行われる総選挙を控えた議員たちにとっては、選挙の顔としては小泉氏と石破氏なら小泉氏の方がありがたいが、石破氏と高市氏では石破氏の方がいいと考える議員が多いと見られる。

 つまり石破陣営としては、高市氏との一騎打ちになれば、1回目で林、上川、茂木、加藤の各候補が集めた議員票のかなりの部分は自分の陣営に取り込めることに加え、選挙を意識した議員票もある程度は見込めるとみていた。高市氏と並んで保守的なスタンスを取る小林鷹之氏や元々麻生派が支持する河野氏の票、そして高市氏の推薦人の大半を占める安倍派が丸ごと高市陣営に行ったとしても、最後は僅差で勝ちきれるというのが石破陣営の計算だった。しかし、勝てるとしても僅差、実際は両陣営とも開票されるまでどうなるかはわからない緊張感に満ちた大接戦だった。

 過去の因縁から石破首相の誕生だけはどうしても阻止したいことに加え、菅氏が牛耳る小泉陣営に後出しで乗っかっても影響力の維持は難しいと考え焦った麻生氏が、あのタイミングで高市支持を打ち出したことが、結果的に石破政権の誕生につながるという、何とも皮肉な展開となった。

 しかし、そのような総裁選を経て石破氏が勝利したことの意味は大きい。

 まず安倍政治を支えてきた安倍派と麻生派を中心とする主流派体制が完全に崩れた。石破政権は菅氏と岸田派、そして茂木派の一部が中心となって支える政権となるだろう。これは遡れば森内閣以来続いてきた清和会政治からの党内擬似政権交代を意味する、自民党にとっても大きな権力シフトとなる。無論、石破氏がそうしたことを背景にどこまで自民党の新しい方向性や新しいパーティアイデンティティを打ち出せるかは未知数だし、安倍、麻生派がこのまま大人しく引き下がっているとも思えない。その意味で、党を二分する大接戦の総裁選を経て、今まさにおきつつある自民党の権力シフトのただ中で、石破政権は波乱の幕開けになったと見るべきだろう。

 政治ジャーナリストの角谷浩一とジャーナリストの神保哲生が自民党総裁選を総括した。

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