パーティ券問題の本質は抜け穴だらけの政治資金規正法とこれを正そうとしない立法府の姿勢にある
弁護士、元検事
パーティ券裏金問題で日本の政治が揺れ続けている。しかし、どうも争点があらぬ方向に向かっているように思えてならない。
依然としてメディア上では裏金を収支報告書に記載していなかった安倍派幹部の責任を問う声が根強い。マイナンバーやインボイスによって収入を1円単位まで政府に握られるようになった国民感情からすれば、もともと資金管理について大きな自由裁量が認められている政治家が、さらに裏金まで溜め込んだり使ったりしていたという事実や、使途の公表が義務づけられていないのをいいことに私的流用が疑われている政策活動費が、まったく非課税扱いになっていることについては、怒りの声があがるのは当然のことだろう。
もちろん責任追及は重要だが、そこに目を奪われて、今回の政治資金不正問題の本質を見誤ってはならない。
まず今回、派閥から裏金を還流されていた政治家のほとんどが立件されなかったのは、政治資金規正法に明確な抜け穴があるからだ。それは派閥を含めた政治団体から政治側に資金が還流された場合、その政治家は複数あるどの政治団体に資金を入れるかを決めない限り、報告義務が生じないというおかしな建て付けにこの法律がなっていることだ。しかも、使用目的は「政策活動費」だったと言いさえすれば、その内訳についても開示義務がない。
まずは現行法のその抜け穴を埋めない限り、いくら派閥を解散しようが、パーティを禁止しようが、裏金はなくならないし、政治腐敗は一掃されない。
次に、そもそも今回の事件は、しんぶん赤旗と神戸学院大学の上脇博之教授が公開された政治資金収支報告書を徹底的に調べ上げた結果、派閥のパーティ収入と支出の間に大きなギャップがあることを突き止め、刑事告発したことで検察の捜査が始まったというのが発端だった。これは政治資金収支報告書を丹念に調べ上げれば不正の事実を明らかにすることができることの証左であると同時に、そもそも現行の収支報告書の公開方法では、1人の人間が何年もかけて公開された収支報告書を徹底的に精査しない限り、入りと出の金額に億単位の差があることすら明らかにすることができないことの証左でもあった。
現行の政治資金収支報告書は基本的にPDF方式で公開され、その状態での閲覧が可能になっている。しかし、これではまったくデジタル化されているとは言えない。なぜならば、PDF上の一つ一つのデータはあくまで画像として公開されているのであって、その内容が数値データになっているわけではないからだ。これがデータ化されていれば検索も可能になるし、1人の政治家の名前を入力すればその政治家の関係の政治団体の名前が一瞬にして表示されるはずだ。また、それぞれの団体がどの企業や個人から幾らの寄付を受け取っているかも、またどの企業や団体が誰に幾らの寄付をしているかも、すべて瞬時に確認することが可能になる。
政治資金規正法はその1条で政治資金をガラス張りにすることによって、政治を国民の不断の監視の下に置くことが目的だと謳っている。しかし、実際には公開はされているものの、国民が監視できるような状態で公開されていないため、この法律の目的が実現されていない。そもそも登録されている政治団体だけで少なくとも6~7万団体以上あり、それが提出した収支報告書の総ページ数は数十万から数百万ページに上る。これを閲覧者自身が手作業で一枚一枚検証して精査することは物理的に不可能だ。現行の政治資金規正法では、そもそも法律の目的である「国民の不断の監視」がまったく可能になっていないのだ。
公開されている政治資金収支報告書を先進国として恥ずかしくないレベルにするためには、これがデータ化され、検索やソートが可能になっていることが最低限の条件となる。実際、これは法律を改正しないでも総務省にその機能を担わせればいいだけのことだが、もし法改正が必要ならただちに実行すべきだろう。
派閥の解消だのパーティの禁止だのはすべて、まず政治資金を最低限にガラス張りにした上で、検討すべきことだ。資金の流れがガラス張りになれば、派閥やパーティの功罪もたちどころに明らかになるはずだ。
むしろ、政治家、とりわけ自民党は、政治資金の収支報告を真にガラス張りにされることだけは何とか避けたいと思っているのではないか。そこれで論点をすり替えるために、派閥の解消だの、安倍派幹部の責任追及など、メディアが飛びつきたくなるようなネタを提供しているのではないか。
また、そもそも裏金が物を言うのは、党内ポリティクス、とりわけ自民党の総裁選の多数派工作で裏金が決定的に物を言う仕組みが放置されているところに問題がある。どれだけ金を使っても、自民党の総裁になることができれば、それはイコール日本の内閣総理大臣だ。見返りは十分にあるし、その実現に貢献した子分に対しても分け与えるポストや利権は掃いて捨てるほどある。その腐敗した利権構造にメスを入れない限り、政治から裏金が一掃されることはないだろう。
裏金問題の本質は政治資金規正法の抜け穴と公開方法にある。政治改革の一丁目一番地はその抜け穴を埋めることと、公開方法を「国民の不断の監視」が可能なものに変更することだ。それ以外のすべての改革は、ガラス張りになった政治を監視する中で本来は国民が決めることであって、政治家が勝手に決めるべきことではない。
これからも政府や自民党が次々に打ち出してくるくせ玉や変化球に惑わされることなく、今回の裏金問題の本質を見極めた上で、何が政治腐敗を一掃させるために適切な措置なのかを正しく理解する必要があるだろう。
政治ジャーナリストの角谷浩一とジャーナリストの神保哲生が議論した。