年金問題の本質
学習院大学経済学部教授
1956年東京都生まれ。79年東京大学経済学部卒業。83年ロンドン大学修士課程修了。79年日本銀行入行。考査局、企画局、国際局、総合研究開発機構(NIRA) 主任研究員、預金保険機構財務部長、年金積立金管理運用独立行政法人審議役・企画部長などを経て2011年より現職。22年より厚労省社会保障審議会年金部会部会長代理。著書に『年金2008年問題-市場を歪める巨大資金』、共著に『国債と金利をめぐる300年史~英国・米国・日本の国債管理政策』など。
経世済民オイコノミア、第2回は元日銀マンで、現在は厚労省の社会保障審議会の年金部会の委員を務めるめる玉木伸介氏をゲストに迎え、日本の年金問題と、なぜ年金に不安を持った人がおカネを貯めるだけではだめなのか、などについて議論した。
少子高齢化が進む中、年金だけでは老後の生活を支えられないとする「老後2000万円問題」は、今や誰もが知るところとなった。しかし、長年年金問題を研究してきた玉木氏は、どれだけ貯金をしたところで、金融資産は実際にサービスやモノを提供する労働力が十分に存在していなければ意味を持たないことを指摘した上で、誰もが老後を貯金で乗り切ろうと考えると、大勢の人が少ない価値を奪い合う単なる「椅子取りゲーム」になってしまうと語る。
健康年齢が延びれば相対的に老年人口が減るため、一定数までは生産人口を拡大させることは可能だ。しかし、新たに生産人口の仲間入りをする若者の数がより早いペースで減ることになれば、労働人口の減少を補うために生産性を高めなければならない。そのためには現役世代が「学習マインド」を持つことが重要だと玉木氏は言う。また、経済学でいうところの「アニマル・スピリット」を持った開拓精神旺盛な起業家に対して積極的に投資を行うことも必要になる。
岸田政権の「資産所得倍増計画」で掲げられた「貯蓄から投資へ」というスローガンにおける「投資」の意味は、マネーゲーム的な「投機」ではなく、生産性を高めるための「人」に対する本当の意味での「投資」でなければならない。年金問題を入り口に、お金というものが社会や個人にとって本質的にどういう意味を持つものなのかなどについて、玉木伸介氏と田内学が議論した。