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政府から情報源の開示を求められたニューヨーク・タイムズのベテランの記者が、刑務所に収監される危険を冒して情報源の開示を拒否し、政府と全面的に争う姿勢を見せている。
証言を拒否しているのはニューヨーク・タイムズで安全保障問題などを担当するジェームズ・ライゼン記者。ライゼン記者は自著『State of War』の中に出てくる米政府のイランの核開発プログラ ムに対する工作情報の出所を証言することを求められ、「情報源を開示するくらいなら刑務所に行く」と、頑なにこれを拒絶しているという。
「Operation Merlin(マーリン作戦)」と呼ばれるこの作戦は、ロシアの科学者を使って、誤った核開発関連の技術をイランに持ち込ませることでイランの核開発の妨害をするというもので、ライゼン氏は自著にそのいきさつを詳細に記していた。この情報漏洩事件では2010年に元CIA職員のジェフリー・スターリング氏が国家機密漏洩の疑いで起訴され、その関連でライゼン氏も裁判で証言を求められていた。ライゼン氏が出廷すれば、著書の情報源がスターリング氏だったかどうかを問われると考えられている。
ライゼン氏は証言を拒否して裁判に訴えたが、裁判所は2審で「刑事裁判で記者が情報源の開示を拒否する憲法上の権利はない」として、ライゼン氏を敗訴とした。6月2日には最高裁が上告を退けたために、ライゼン氏の敗訴が確定している。
1955年オハイオ州生まれのライゼン氏は、2002年に9・11同時テロ事件に関する記事で、また2006年にはブッシュ政権の通信傍受を暴いた記事で、2度ピューリッツァー賞を受賞している。
アメリカでは記者の取材源保護をめぐる判例として、1972年の「Branzburg v. Hayes判決」において、最高裁が5対4の僅差で記者の取材源秘匿の権利を否定する判決を下しており、これがこの問題に関する唯一の最高裁判断とされている。政府がある事件を目撃した複数の記者たちに証言を求め、これを記者らが拒否したことで情報源の秘匿が争われることになったこの裁判では、判決で記者の取材源秘匿権を否定する側に回ったパウエル判事が、政府が無条件で記者に証言を強いる権利があるわけではなく、証言をさせることの利益と取材源を秘匿することの利益を比較衡量した上で判断されるべきとの意見を添えたため、今日、アメリカでは記者に取材源を秘匿する権利が自動的に保障されるわけではないものの、取材源の秘匿は報道の自由を保障した憲法第一修正条項に関わる重要な社会的価値が認められるべきものと考えられている。
今回のライゼン記者をめぐる高裁判決でも、情報の出所を証言できる人がライゼン氏以外にはいないなどの理由から、2対1でライゼン氏の秘匿権が否定されたが、唯一反対票を投じた少数派のグレゴリー判事は、「憲法第一修正条項で保障された報道の自由よりも政府の権利を優先する誤った判断だ。報道の自由と社会の中における情報の自由な流れを妨げる事になりかねない」と多数派の判断を厳しく批判している。