この運用基準で秘密保護法の濫用は防げるか
NPO法人情報公開クリアリングハウス理事長
完全版視聴期間 |
(期限はありません) |
---|
自民党の石破茂幹事長が12月11日、日本記者クラブの講演で、特定秘密保護法の立法意思の中に、報道機関の秘密情報を報じる権利を「抑制」することも含まれるとの認識を示したことが、物議を醸している。
石破氏自身は同日、特定秘密保護法で「報道機関や記者が罰されることはない」と前言を一部撤回したが、翌日、あらためて前言を修正するなど迷走を繰り返し、石破氏を含む同法案の立案者たちが、報道機関や記者が正当な手段で特定秘密を入手する行為は免責されるが、それを報じることは許されない、と考えていることがいみじくも明らかになった格好だ。
石破氏と前後して同じく11日午後、同法案修正案の提案者で特定秘密保護法案を審議した衆議院の国家安全保障に関する特別委員会の自民党筆頭理事を務めた中谷元・元防衛庁長官も、報道機関や記者が特定秘密であることを知りながらそれを報じた場合は処罰の対象になり得るとの考えを示している。中谷氏が同法案の細部まで熟知していることは言うまでもない。
12月6日に可決し13日に公布された特定秘密保護法は、第24条で「外国の利益若しくは自己の不正の利益を図り、又は我が国の安全若しくは国民の生命若しくは身体を害すべき用途に供する目的で、(中略)特定秘密を取得した者は、10年以下の懲役に処し、又は情状により10年以下の懲役及び1000万円以下の罰金に処する」と規定されており、担当大臣や修正案の提案者らは、この条文を前提に、報道目的の情報入手は処罰の対象にはならないと繰り返し発言してきた。また、同法は22条で、報道の自由に配慮する旨が定められている。
しかし、同法には上記の24条に特定秘密の「取得」は阻却されるとの条文はあるが、取得した情報を報じたり公表したりする行為に直接触れる条文は存在しない。石破氏が一旦は報道機関が取得するのはいいが、報じるのは駄目だという見解を示しながら、それを撤回しなければならなかった背景には、そもそも同法には秘密の取得についての条件は規定されているが、それを「報じる」あるいは「公表する」ことにについて何ら言及がないことに起因するものだったと考えられる。
そして、石破氏や中谷氏ら自民党幹部の「立法意思」は、「取得は許されるが公表は許されない」というものだったことも明らかになった形だ。
罪刑法定主義の前提に立てば、法に明確な定めのない罪状で人を処罰することはできない。その意味では、例えそれが重大な特定秘密であったとしても、この法律に基づいて「報じる」行為を罰することはできない。
しかし、先にアメリカで膨大な軍事機密をウィキリークスに手渡した罪で裁かれ禁固35年の判決を受けたブラッドレー・マニング元上等兵の裁判では、ウィキリークスに機密を手渡す行為が、結果的に敵国やテロリストにも情報が渡ることを知った上での行為だったと評価すべきかどうかが大きな争点となった。マニング氏自身はアメリカの対テロ戦争の問題点を告発する目的で機密文書を暴露したのであって、敵を利する意図はなかったと主張したが、結果的に判決でマニング氏は、最高で死刑もあり得た「利敵行為の罪」こそ免れたものの、間接的に敵を利する可能性があることは知っていたと認定され、スパイ防止法違反の重罪に問われている。
同じ法理を適用すれば、報道機関か否かを問わず、公共的な目的で特定秘密を世に問いたいと考えた人が、単に秘密を入手することのみを最終目的とすることはあり得ない。当然、それを公表することが目的になる。しかし、もし公表を目的に秘密を入手し、そして実際にその秘密を公表すれば、間接的にせよ、それは利敵目的であったと解釈することが可能になり、24条の免責対象から外れてしまう可能性を示唆している。
一連の発言で浮き彫りになった、現政権が特定秘密保護法に込めた「立法意思」とは何だったのかを、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。