少子化対策と医療・介護をバーターにしてはいけない
淑徳大学総合福祉学部教授
完全版視聴期間 |
(期限はありません) |
---|
先の臨時国会では、特定秘密保護法の陰で重要な法律が幾つも成立しているが、中でも生活保護法の改正は、日本という国のあり方を根底から変えかねないとても重要なものだった。
「申請の厳格化」「近親者による扶養の義務化」「行政の調査権限強化」などを骨子とする生活保護法の改正案は、6日の衆院本会議で自民党、公明党などの賛成多数で可決、成立した(参院は可決済み)。共産党と社民党は法案に反対した。
社会保障制度の中でも最後のセーフティネットとなる日本の生活保護は、世界でも類を見ないほどハードルが高い。困窮家庭の何割が実際に生活保護を受けているかを表す捕捉率で、日本は15〜18%と先進国中で最も低い水準にある。本来ならば生活保護を受けるべき家庭のうち、9割を超す困窮家庭が、実際には窓口で弾かれるなどして、生活保護を受けられないでいるのだ。
この捕捉率はフランスの91.6%、スウェーデン82%、ドイツの64.6%などと比較しても、著しく低い。既に、本来もらえるべき人がもらえないほどハードルの高い生活保護に対し、日本は今国会で、そのハードルを更にあげることになる法律を可決してしまったのだ。
昨年来、年収も安定しているとみられる著名人の親族が生活保護を受けていたことがメディアなどで取り上げられ、生活保護の不正受給がことさらに注目を浴びた。しかし、日本の生活保護制度の不正受給は生活保護費全体の0.4%にも満たない。9割もの困窮家庭が生活保護を受けられずにいるのに対し、0.4%の不正を許さないようにするために、生活保護を申請する際のハードルを高くするという今回の法改正によって、日本の生活保護の捕捉率は更に低下する可能性が高い。
われわれは、社会の中に生活に困っている人がいてもそれを助けないことを前提とする社会に向かっているのか。いまやOECD加盟国の中で貧困率がワースト4位となった日本はこの先どんな社会になっていくのか。生活保護の在り方を改めて考えながら日本人の意識などについて、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。