それでも裁判員制度は必要だ
桐蔭横浜大学法学部長・教授
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1960年奈良県生まれ。82年京都大学理学部生物系卒業。86年京都大学大学院法学研究科修士課程修了。パリ第二大学博士課程を経て、91年京都大学大学院法学研究科博士課程修了。京都大学法学部助手、桐蔭横浜大学法学部教授を経て、2012年より現職。専門は法社会学。著書に『安全神話崩壊のパラドックス』『日本の殺人』など。
高校3年の鈴木沙彩さんが元交際相手の池永チャールストーマス容疑者にストーカー行為を受けた上で刺殺された事件で、警察の対応がやり玉にあがっている。
確かに、事件の4日前に鈴木さんが通う高校の担任が、地元の杉並警察署にストーカー被害の相談をした際に、杉並署の担当者が鈴木さんの住まいがある三鷹の警察署に相談するようアドバイスしただけで済ませてしまったことは、大いに悔いが残る。鈴木さんが両親とともに8日午前に三鷹署を訪れ、ストーカー被害を相談したその日の午後に、鈴木さんが殺害にあったことを考えると、最初の相談の段階でもう少し何とかならなかったかとの思いは禁じ得ない。
しかし、法社会学者で桐蔭横浜大学法学部長の河合幹雄教授は、今回の杉並署の消極的な対応には問題はあったことを認めた上で、ストーカー犯罪への対応を全面的に警察に依存することには注意が必要だと警鐘を鳴らす。
男女間の別れ話などに起因するストーカー行為の大半は、警察から連絡があれば収まる場合が多いことはデータが示している。その意味では警察の介入は効果的だ。
また、ストーカーが今回のように刃物などの凶器を持っている場合、一般市民は自分の身を守る術を持たない以上、警察の力に頼るしかないのも事実だろう。
しかし、ストーカー規制法の制定によって、いやがる相手につきまとう行為自体は犯罪として扱われることになったが、それがその後、暴力や凶行に及ぶことを事前に予想することは、ストーカー自体が新しいタイプの犯罪で、警察の側にノウハウの蓄積がないこともあり、非常に難しいと河合氏は言う。
実際に2012年に認知された約2万件のストーカー事案のうち、実際に警察による警告や逮捕まで至った事件は350件あまり、全体の2%にも満たない。その2%未満のために、常に最悪の事態を想定して警察が最大限の予防措置を取ることが果たして妥当なのか、あるいは、そもそもそれがマンパワー的に可能なのかは、慎重に検討する必要がある。
将来のある若者があのような形で命を落とすような悲劇を避けるために、われわれはあらゆる努力を払わなければならないことは言うまでもない。しかし、その解決を全面的に警察に期待することのリスクと限界についても、われわれは自覚的になる必要がある。
どうすれば今回のような事件を避けることが可能なのか。一部の特別に凶悪なケースを防ぐために、警察にどこまで期待すべきかなどについて、ジャーナリストの神保哲生が河合氏に聞いた。