大飯原発直下の活断層を直ちに調査せよ
東洋大学社会学部教授
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1956年新潟県生まれ。80年東京大学理学部卒業。90年東京大学大学院理学系研究科地理学専攻博士課程修了。理学博士。東洋大学社会学部助教授などを経て2002年より現職。共著に『活断層地形判読』、『活断層詳細デジタルマップ』など。
原子力規制委員会の専門家チームが9月2日、大飯原発の敷地内の破砕帯は活断層ではないとの判断を下したことで、規制委は大飯原発の安全審査を再開する方針を固めた。しかし、専門家チームのメンバーで地質学が専門の渡辺満久東洋大学教授は、これで大飯原発の敷地内に活断層が存在しないことが確認されたわけではないと、懸念が完全に払拭されていないことを強調する。
原子力規制委員会の専門家チームは昨年11月から3回に渡り、大飯原発の敷地内の破砕帯を調査してきたが、専門家チーム内で、これを活断層と主張するメンバーと、単なる地滑りに過ぎないと主張するメンバーの間で意見が分かれ、結論が得られない状態が続いていた。
しかし、このたび専門家チームが「活断層ではない」との最終判断に至った経緯を、渡辺教授は関西電力の設置許可申請の際に提出されたデータが間違っていたことがわかったからと説明する。間違っていたというよりも、全くデタラメだったと言った方がより正確かもしれない。
これまで専門家チームは、原発の重要構造物に指定されている緊急用取水路を横切る「F6」と呼ばれる断層に焦点を絞って調査を続けてきた。これが活断層と認定されれば、大飯原発3、4号機は稼働できなくなるからだ。
関西電力は大飯原発の設置許可の申請の際に、このF6を断層として示しており、その断層の延長上を掘って見たところ、活断層の疑いがある地層が見つかった。その断層の評価をめぐり、専門家チーム内でこれを活断層とする委員と単なる地滑りとする委員の間で意見が対立していたわけだ。
ところが今回実際にF6断層の別の場所を掘ってみたところ、そもそも原発の下を通るF6断層なるものが、関電が申請したような形では存在しないことが明らかになったのだという。
もともと専門家チームはF6断層が活断層かどうかのみを判断することを求められていたことから、幻の断層が活断層ではないとの結論になるのは当然だった。
調査団はまた、元々関電がF6として申請していた断層の近くに別の断層を発見した。これは山の上にあって地層が存在しないため、地層学の専門家では活断層かどうかは判断ができない。たまたま調査団のメンバーの中に山の上の断層を判断できる構造地層学が専門の重松紀生氏(産業技術総合研究所主任研究員)がいたため、重松氏の「これは古い断層なので動かない」という意見によって、それも活断層ではないとの結論に至ったのだと、渡辺氏は一連の経緯を説明する。
つまり、関電の設置許可申請に記されていたデータがデタラメで、そもそもF6なる断層は存在せず、近くに見つかった別の断層も山頂にあり、チームの中で唯一の専門家である重松氏の鶴の一声で活断層ではないとの結論に至ったというのだ。
しかし、問題は今回の調査で、重要施設の下を通っているF6なる断層が存在しないことがわかっただけで、そもそも関西電力の提出したデータが不正確であり、当時行われた審査も明らかに杜撰だったことが疑われることから、他にもまだ発見されていない断層が原発付近やその直下に多く存在している可能性が排除できないということだ。
また、F6の近くに見つかった断層についても、不安が残る。今回の専門家は地層から活断層の有無を判断するために招集されたチームであり、山頂の断層を判断する専門性を持っているメンバーが重松氏しかいなかったために、重松氏の意見が尊重されたというが、当初想定していたものと異なる断層を評価するのであれば、別途その分野の複数の専門家たちにその評価を依頼してから結論を得るべきではないのか。
「大飯原発敷地内に活断層がないことがわかったわけではない」ことを強調する渡辺氏に、ジャーナリストの神保哲生が聞いた。