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新しい元号が発表になった。
安倍首相は歴史上初となる万葉集からの引用となったことについて、「日本には決して色あせることのない価値がある」とした上で、「万葉集は、1200年余り前の歌集だが、一般庶民も含め地位や身分に関係なく幅広い人々の歌が収められ、その内容も当時の人々の暮らしや息づかいが感じられ、正に我が国の豊かな国民文化を象徴する国書だ。これは世界に誇るべきものであり、我が国の悠久の歴史、薫り高き文化、そして、四季折々の美しい自然、こうした日本の国柄はしっかりと次の時代にも引き継いでいくべきであると考えている」としか説明していない。
確かに元号は1979年に制定された元号法で「政令で定める」ことになっており、内閣がこれを決定する権限を持っている。
しかし、1400年もの間、中国の古典から引用するという、まさに「伝統」を貫いてきた元号の出典を、今ここにきて突如として日本の古典に変更する以上、その理由についてもう少し丁寧な説明が必要なのではないか。
令和はかつて安倍首相が好んで使っていた「美しい日本」に呼応する意味合いが込められているようだが、元号という天皇制と深く結びついた制度の政治利用について、われわれはもう少し敏感である必要があるのではないか。
また、今週は日産のカルロス・ゴーン元会長の再逮捕が大きなニュースになった。しかし、実はその逮捕の2日前、ゴーン氏の弁護人の弘中惇一郎弁護士が、とても重要な記者会見を東京・丸の内の日本外国特派員協会で開いていた。残念ながら会見の内容は再逮捕によって吹き飛んでしまったが、4月2日、弘中氏は東京地裁に対し、ゴーン氏の裁判を、同じくこの事件で被告となっているグレッグ・ケリー元社長と法人としての日産とは分離するよう申し立てを行い、それを報告するために記者会見を開いていたのだ。
今回は日産の司法取引によってゴーン、ケリーの両氏は刑事被告人の身となった。しかし、今回の事件で違法とされている行為の多くは、日産が会社として承認したものだったことは知られている。そのため、実際に検察と司法取引をした日産の2人の社員は免責されているが、法人としての日産はこの事件の被告となっているのだ。
これはつまり、公判の場では日産の代表者である西川廣人CEOがゴーン、ケリー両被告とともに被告人席に並んで座ることを意味している。つまり、刺した側と刺された側が被告人として同じ席に座ることになるのだ。
これだけでも十分に異様なことに聞こえるはずだが、もし裁判が実際にこのような形で進むことになると、公正な裁判(フェアトライアル)が期待できないと弘中氏は言う。なぜならば、検察が出してくる供述調書などの証拠に対し、いくら弘中氏が不同意の意思を表明しても、既に検察と司法取引をしている日産は、すべての証拠を認めてしまうことが必至だからだ。
弁護側が根拠を持ってある証拠の採用に反対し、それが認められた場合、本来、裁判官はその証拠を見ることがない。特に検察が出してくる供述調書は言わば検察の作文のようなものの場合が多く、弁護側としてはそれを証拠として採用されることには強く反対することになる。しかし、いくらゴーン氏やケリー氏側が証拠採用に反対しても、日産がすべての証拠採用に賛成してしまえば、裁判長は検察側が出してくるすべての証拠を見ることになる。そのような裁判官が予断を持たずにゴーン氏を裁けるとは思えないことから、弘中氏はゴーン氏の裁判を日産とは別の裁判体に移し、別の裁判官による裁判にするよう要請しているのだ。
弘中氏は裁判はまだ始まってもいないが、この申し立てが認められるかどうかについては、「この裁判のもっとも重要な局面を迎えている」とまで言い切る。この結果如何で、この裁判がフェアトライアルになるかどうかが決まってしまう可能性が高いからだ。
この事件については様々なリーク報道が乱れ飛んでいるが、ゴーン氏がどれだけの違法行為をしたかは、実際の公判を見てみなければ分からない。しかし、裁判自体が公正でなければ、どのような判決が出ても、その正当性に疑義が生じることは避けられない。
ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。