トランスジェンダーへの理解を進めるためには抽象的ではなく具体的な議論を
株式会社ニューキャンバス代表、NPO法人東京レインボープライド共同代表理事
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1942年福岡県生まれ。67年東京大学文学部卒業。75年弁護士登録。専門はセクシュアル・ハラスメント、ドメスティック・バイオレンスなど。東京強姦救援センター法律アドバイザー、女性の安全と健康のための支援教育センター代表理事を兼務。著書に『性と法律』、『性差別と暴力』など。
財務次官のセクハラ疑惑をめぐる財務省の対応は、最強官庁と呼ばれる財務省におけるセクシュアル・ハラスメントに対する前時代的な認識を露わにした。福田淳一前財務次官のセクハラを告発した被害者であるテレビ朝日の女性記者に対し、財務省と顧問契約を結んでいる弁護事務所に名乗り出るよう要請したのだ。
辞任した福田氏の後任次官と目されている矢野康治官房長にいたっては国会で、「(名乗り出ることは)そんなに苦痛なことなのか」と言い出す始末である。
セクハラ問題に対する最低限の理解があれば、被害者が声をあげることがいかに困難であるかは当然理解できていなければならないことだ。
そもそもセクシュアル・ハラスメントは男女雇用機会均等法に規定された不法行為であり、同法はその11条で事業主の責務として「雇用管理上の必要な措置をとらなくてはならない」ことを明確に定めている。さらに公務員については、人事院規則のなかにセクシュアル・ハラスメントの防止等という項目があり、「他の者を不快にさせる性的な言動」について「職員がその職務に従事する際に接する職員以外の者を不快にさせる」場合も含め、その長が適切に対応しなければならないことが明記されている。
1989年に福岡で日本初のセクハラ訴訟が起きてから30年近くが経つ。福岡訴訟で被害者の代理人を務めた角田由紀子弁護士は、92年に勝訴判決が出て以降、セクハラに対する社会の問題意識が少しずつ進んできたことを実感してきた。判例を積み重ねながら、企業の対策も進んできていた。だからこそ、中央省庁のトップエリートといわれる財務省の今回の対応には、驚きを禁じ得ないという。入省年次や出身大学、身分(キャリア(総合職)とプロパー(一般職)など)によって上下関係が当たり前のように受け入れられている官僚機構という特殊なヒエラルキーのなかで、人権意識が失われてしまっているのではないかと、角田氏は指摘する。
1980年代にアメリカで初めてセクシュアル・ハラスメントが社会問題化したときから、アメリカではセクシュアル・ハラスメントは人権問題として取り扱われてきた。1986年、アメリカ連邦裁判所はセクシュアル・ハラスメントを「雇用における性差別」として位置づけ、公民権法上の不法行為としてこれを断罪している。日本でもセクハラという言葉だけは広まったが、その根本に性差別があり、これが人権侵害であるという認識が正しく理解されてこなかったことを角田氏は危惧する。
福岡訴訟以来30年にわたりセクシュアル・ハラスメント問題に取り組んできた弁護士の角田氏とジャーナリスト迫田朋子が議論した。