トランプ政権の1年はアメリカと世界をどう変えたのか
成蹊大学法学部教授
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アメリカ大統領選挙の候補者選びは、相次ぐ不規則発言で物議を醸してきたドナルド・トランプ候補が共和党の公認候補となることが確実となり、話題をさらっている。一方、民主党の候補者選びは、代議員獲得数で大幅にリードするヒラリー・クリントン候補の勝利がほぼ確実視されているとの報道が目に付く。
そして、興味の対象は誰が両党の候補になるかから、トランプとクリントンが戦った時、どちらが勝つかにシフトしてきているようだ。
しかし、民主党の候補者選びはまだ終わっていない。終わっていないどころか、クリントンとバーニー・サンダース候補の差は、実際はごく僅かと言っていい。民主党は党の幹部に特別に大きな影響力を与える特別代議員という制度を採用しているため、結果的に代議員の獲得数でクリントンが大きくリードした形となっているが、民主党の一般党員の支持は依然として拮抗しているのが実情だ。
民主党の大統領候補者選びは、5月13日の時点で、クリントンが2,235人の代議員を獲得し、過半数の2,383人に迫ろうかというところまで来ている。しかし、党員の投票によって割り振られる一般代議員の獲得数では、クリントンの1,719人に対してサンダースも1,425人を獲得しており、その差は全代議員の5%ほどしかない。実際の党員による投票では両者は僅差で拮抗しており、辛うじてクリントンがリードしているという状態に過ぎない。
ところが民主党には合計で4,765人の代議員のうち、713人にのぼる特別代議員枠というものが設けられている。上下両院議員や州知事、そして党組織の幹部などが占める特別代議員は、一般代議員と異なり、予備選や党員集会における党員の投票結果とは一切関係なく、自らの意思で支持する候補を決める権限を与えられている。そして、民主党の特別代議員713人のうち、542人が既に態度を明らかにしているが、そのうち500人がクリントン支持に回っている。これに対して、特別代議員でサンダースを支持しているのは僅か42人だけだ。
圧倒的な特別代議員からの支持が、クリントンをサンダースに対して優位に立たせているのが現実なのだ。逆の見方をすれば、特別代議員の多くがサンダース支持に回れば、サンダースの獲得代議員数がクリントンのそれを上回ることも十二分に可能なのだ。
実はクリントンとサンダースの支持基盤は世代間でくっきりと分かれている。若者が熱烈にサンダースを支持し、中高年がクリントンを支持する構図だ。富裕層や企業への課税を強化し、大学の無償化など若者の支援策を積極的に進めることで格差の是正を主張しているサンダースを若者は圧倒的に支持しており、その境界線が45歳にあると言われる。そして、ほぼ全ての特別代議員が45歳以上であり、クリントンの支持層なのだ。
民主党の幹部から成る特別代議員は、民主党のクリントン政権のファーストレディや民主党の上院議員、そしてオバマ民主党政権の国務長官を歴任したクリントンにとって、いわば身内のようなもの。特別代議員という身内による、いわば「あげ底」の支持を受けたクリントンが、このまま民主党の候補に選ばれた場合、クリントンは専ら中高年層と党幹部の支持で接戦の予備選を制した候補者ということになる。身内からの贔屓で党公認候補を辛うじて勝ち取ったクリントンで、本当にトランプに勝てるのかを不安視する声は根強い。
一般党員の意思よりも、党のエリート幹部の意思を優先する民主党の候補者選びの特徴と、本選での影響について、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。その他、広島を訪問するオバマは被爆地に「フットボール」を持ち込むのか、など。