トランプ7300万票の意味を考える
慶応義塾大学SFC教授
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1967年北海道生まれ。90年上智大学外国語学部卒業。92年ハーバード大学大学院東アジア地域研究科修士課程修了。97年同大学大学院人類学部博士課程修了。博士(社会人類学)。ケンブリッジ大学、英オックスフォード大学、ハーバード大学客員研究員などを経て、2006年より現職。著書に『アメリカのジレンマ・実験国家はどこへゆくのか』、『リバタリアニズム アメリカを揺るがす自由至上主義』など。共著に『反グローバリゼーションとポピュリズムー 「トランプ化」する世界』など。
米大統領選挙は破天荒な発言を繰り返す共和党のトランプに注目が集まりがちだが、民主党の候補者選びにも大きな異変が生じている。
当初、泡沫候補と目されていたバーニー・サンダース上院議員が、大本命のヒラリー・クリントン元国務長官を相手に大善戦しているのだ。特に直近の予備選・党員集会では8州のうち7州で勝利を収めるなど、中盤から後半に差し掛かった予備選で、クリントンを脅かし始めている。
実際、ここまで予備選・党員集会を終えた37の州と地域のうち、クリントンが20州で勝利したのに対し、サンダースも17州で勝利している。ニューヨーク州、ペンシルバニア州、カリフォルニア州などの大票田の予備選の結果次第では、逆転も夢ではない。
ところが、サンダース候補が予備選や党員集会で勝利しても、最終的に候補を選ぶ代議員の獲得数では、クリントン候補が依然として圧倒的なリードを続けている。なぜならば、民主党の候補者選びでは一般の党員よりも、党の幹部や中枢がより強い発言力を持つからだ。
アメリカ大統領の民主・共和両党の候補者選びは、各州で候補者を決める投票を行うが、その投票結果に応じて代議員が割り振られる仕組みになっている。そして、全代議員のうち過半数を獲得した候補が党の正式な候補になる。
民主党は全米で4765人の代議員がいるため、最終的に過半数に当たる2383人以上の代議員を獲得すれば党の候補になる。ところが、代議員の中に特別代議員と呼ばれる、一般党員の投票結果に拘束されない投票権を持つ特殊な代議員が存在し、民主党の場合、4765人のうち714人が特別代議員となっている。
特別代議員は州知事や州選出の上下両院議員、党組織の幹部などで、党のエスタブリッシュメントの総意を代弁する立場にある。
そして、民主党では特別代議員のほとんどが、ヒラリーを支持している。そのため、一般党員の投票でどれだけサンダースが勝っても、代議員の獲得競争ではクリントンの優位が揺るがないのだ。
パナマ文書が富裕層による租税回避の実態や、広がる貧富の格差を露呈させる中、富裕層への課税強化やより積極的な富の再配分を訴えるサンダースは追い風を受けている。しかし、仮にサンダースがより多くの一般党員の支持を集めても、民主党の中枢を占める特別代議員の力で、クリントンが選ばれる公算が強い。
なぜ民主党幹部はサンダースを嫌うのかを、慶応義塾大学の渡辺靖教授に聞いた。