五輪談合事件に見る、捜査能力の劣化で人質司法に頼らざるをえない特捜検察の断末魔
弁護士
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五輪の公式エンブレムに盗作の疑いがかけられている問題で、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会は9月1日、「一般国民の理解を得られない」ことを理由に、佐野研二郎氏がデザインしたエンブレムの使用を撤回すると発表した。
会見で組織委の武藤敏郎事務総長は佐野氏自身が模倣を否定している上、エンブレムを選考した審査委員も模倣や剽窃はなかったと判断しているとして、盗作はなかったが、あくまで一般国民の理解を得られないことを撤回の理由とした。
しかし、記者会見で「一般国民とは誰のことか」と聞かれた武藤氏は、「よくわからない」と答えるにとどまるなど、エンブレム撤回の真の理由が何だったのかは釈然としない。
いずれにしても、新国立競技場に続いて大会の公式エンブレムもが「白紙撤回」を強いられたことは、五輪関係者のみならず、日本の国際的な信用という意味で大きな痛手であることは否めない。要するに、今の日本に五輪を適正に運営する能力があるのかが疑われかねない事態と言っていいだろう。
今回のエンブレム騒動を巡っては、ネット上で一般のネットユーザーが先を争うようにして画像検索などで「盗作」や「模倣」が疑われる画像探しに奔走した結果、五輪エンブレムのみならず、佐野氏の他の作品についても大量に模倣が疑われる結果となり、それが更に状況を悪化させた。
一部ではネット世論を一般の世論と混同しているとの批判もあるようだが、それは当らない。そもそも今の時代、五輪のエンブレムのような一般市民の関心が高い意思決定を、ネットを通じて一般の市民を巻き込まずに行えるわけがないことを、組織委が理解できていないことに最大の問題がある。
また、武藤事務局長は組織委が佐野氏の作品と類似したものをネット上で発見できなかったことについて、情報の流出を恐れて、候補作品を事前に画像検索にはかけていないかったと説明している。情報が漏れれば悪意のある人が、先回りして候補作品を意匠登録してしまう恐れがあったからだという。しかし、これも、最終選考に残った作品をすべて意匠登録するか、グーグルなど画像検索サイトの運営会社とあらかじめ条件を話し合うなど、対応策はいくらでもあったはずだ。
情報漏えいが怖いなどという理由でネットを使った事前チェックを行わないまま候補作品を選び、発表直後に一般のネットユーザーが一斉に画像検索を行った結果、酷似した作品がザクザクと出てきてネットが炎上というのは、あまりにもお粗末は話ではないか。
早い話が、ネット時代の世論の特性を理解せず、その一方で、著名な専門家で審査委員会を組織し、過去に複数の賞を受賞したデザイナーにしか応募資格を与えない権威主義を地で行くなど、運営組織委員会の体質があまりにも古すぎるのだ。
東京五輪の組織委員会はに元経団連会長の御手洗冨士夫を名誉会長、森喜朗元首相を会長に据え、以下、トヨタ自動車社長の豊田章男を副会長に、武藤敏郎元財務次官を事務総長にと、役員には錚々たるメンバ-が名を連ねる。しかし、そもそもそうした権威だけで物事が動かせるような時代ではない。新国立競技場といい、エンブレムといい、運営主体に五輪という国際的なイベントを運営する基本的な能力が欠けていることは明らかだ。このままでは、今後より大きな、そして致命的な問題が生じても不思議はない。手遅れになる前に、組織委員会の全面刷新を図るべきだ。