トランプ政権の1年はアメリカと世界をどう変えたのか
成蹊大学法学部教授
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安倍晋三首相が8月14日に発表した戦後70年談話では、「侵略」や「植民地支配」といった日本の戦争責任に関連するキーワードは含まれていたものの、いずれも間接的な表現が使われ、首相自身の歴史認識が示されたとは言い難い内容だった。
談話は注目されていたキーワードを含めることで、アメリカを始めとする国際社会や、安保法制をめぐる支持率の低下、連立を組む公明党に配慮しつつも、自身の歴史認識を示すことは意図的に避け、あえて謝罪や反省の言質を与えないことで、安倍首相が掲げる「戦後レジームからの脱却」を期待する右派の感情にも配慮した、まさに玉虫色の談話だったと見るのが妥当だろう。
一方、アメリカでは8月11日、憲法学者でインターネット上のオープンな著作物の利用を規定した「クリエイティブ・コモンズ」の設立者としても知られるハーバード大学のローレンス・レッシグ教授が、条件付きながら大統領選挙への出馬を表明し話題をさらった。
レッシグ教授は現在のアメリカが、建国の父たちが尊んだ「平等の精神」を失い、富裕層や特定の圧力団体が政治を支配する非民主的な寡頭政治の国に成り下がっているとして、これを抜本的に是正するための「市民平等法」の制定に向けた運動を立ち上げると宣言。既存政党の候補者の中から、同法の制定を最優先の選挙公約として受け入れる候補者が現れなかった場合、教授自身が大統領選挙に立候補するとしている。
レッシグ教授はまた、その第一段階として、9月7日のレイバー・デーまでに100万ドル(約1億2千万円)の資金をクラウドファンディングによって集められるかどうかを出馬の条件としているが、レッシグ氏のキャンペーンサイトLessig2016によると、キャンペーンの立ち上げから4日後の8月15日段階で、既に2500人から20万9千ドルの寄付が寄せられているという。
また、レッシグ教授の出馬表明と相前後して、アメリカでは大統領選挙の候補者選びでも異変が起きている。10人の候補者が乱立した共和党の大統領候補者選びで、ニューヨークの不動産王にして大富豪のドナルド・トランプ氏がブッシュ元大統領の弟のジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事らの有力候補を押さえて支持率でトップに躍り出たかと思えば、民主党の候補者争いでも、一貫して大本命と目されてきたヒラリー・クリントン元国務長官が2位に転落するという予想外の展開となっている。
8月13日に行われた民主党の大統領候補者に関する世論調査で、クリントン候補への支持が37%にとどまり、44%の支持を集めた、日本ではまだ無名なバーニー・サンダース上院議員に大きく水をあけられる形となった。サンダーズ上院議員は社会主義者を自任する民主党左派のベテラン政治家だが、富裕層や企業への課税を強化する一方で、大学の無償化を提唱するなど、自由を重んじるアメリカにあっては珍しく明確に社民主義的な主張を展開している。
そのサンダース候補は、ノーベル経済学賞の受賞者でコロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授や同じく著名な経済学者でクリントン政権で労働長官を務めたロバート・ライシュカリフォルニア大学バークレー校教授からも強い支持を受けるなど、大本命クリントン候補にとっては脅威の存在となり始めている。
安倍首相の70年談話の評価と、レッシグ教授の出馬や社会主義者候補サンダース上院議員の躍進に見られるアメリカ政治の地殻変動について、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。