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欧米の日本研究者ら187人が日本政府及び安倍晋三首相に対し、5月4日、過去の植民地支配や侵略の過ちを認めるよう求める声明を出した。しかし、この声明は名だたる日本の専門家たちによるものだけに、重みがある。また、通り一遍の日本批判ではなく、韓国や中国による慰安婦問題の政治利用を批判し、欧米諸国もまだ歴史と向き合えていないことを認めた上で、それでも日本に対して「過去の過ちについて、できる限り偏見のない清算」を求めるなど、その内容は注目すべき点を多く含んでいる。
これは「日本の歴史家を支持する声明」(Open Letter in Support of Historians in Japan)と銘打った声明文で、ハーバード大のエズラ・ボーゲル名誉教授やマサチューセッツ工科大のジョン・ダワー名誉教授、コロンビア大学のキャロル・グラック教授ら、名だたる欧米の歴史学者や政治学者187名が署名をしている。特に日本研究で実績があり、親日家として知られる学者が多く含まれているほか、欧米の大学で教鞭を執る日本人の歴史学者や政治学者も含まれている。
声明は戦後日本の歩みは「世界の祝福に値する」ものだが、「祝福を受けるに当たり、歴史解釈の問題が障害になっている」として、戦後70年を迎えるにあたり「過去の過ちについて、できる限り偏見のない清算を共に残そう」と、日本に呼びかけるような内容となっている。
特に従軍慰安婦問題には詳しく言及し、「日本帝国の軍関係資料のかなりの部分は破棄されている」、「各地から女性を調達した業者の行動はそもそも記録されていなかったかもしれない」とした上で、「しかし、女性の移送と「慰安所」の管理に対する日本軍の関与を明らかにする資料は歴史家によって相当発掘されいるし、被害者の証言にも重要な証拠が含まれている」と指摘。
その上で、「慰安婦の正確な数」や「日本軍が直接関与していた度合い」やその「強制性」について、さまざまな議論があることは承知しているが、「日本帝国とその戦場となった地域において、女性たちがその尊厳を奪われたという歴史の事実を変えることはできないし」、「大勢の女性が自己の意思に反して拘束され、恐ろしい暴力にさらされたことは、既に資料と証言が明らかにしている通りだ」としている。
また、「特定の用語に焦点を当てて狭い法律的議論を重ねることや、被害者の証言に反論するためにきわめて限定された資料にこだわることは、被害者が被った残忍な行為から目を背け、彼女たちを搾取した非人道的制度を取り巻く、より広い文脈を無視することにほかならない」と、これを批判している。
その一方で声明は、慰安婦問題が韓国や中国によって、政治利用されてきたことも問題視している。
「この問題は、日本だけでなく、韓国と中国の民族主義的な暴言によっても、あまりに歪められてきた。」「元「慰安婦」の被害者としての苦しみがその国の民族主義的な目的のために利用されるとすれば、それは問題の国際的解決をより難しくするのみならず、被害者自身の尊厳をさらに侮辱することにもなる」として、両国によるこの問題の政治利用を批判した上で、「しかし、同時に、彼女たちの身に起こったことを否定したり、過小なものとして無視したりすることも、また受け入れることはできない」と、仮に中韓による政治利用があったとしても、日本は「日本政府が言葉と行動で、過去の植民地支配と戦時における侵略の問題に立ち向かい、その指導力を見せる絶好の機会」とすべきであると提案している。
更に声明は「多くの国にとって、過去の不正義を認めるのは、未だに難しいことだ」と、過去を清算することの困難さへの認識を示した上で、第二次世界大戦中に抑留された日系人への補償に40年を要し、奴隷制度が廃止された後もそれを公民権という形で実際の法律に反映するまでに100年の年月がかかったことを指摘した上で、「米国、ヨーロッパ諸国、日本を含めた、19、20世紀の帝国列強の中で、帝国にまつわる人種差別、植民地主義と戦争、そしてそれらが世界中の無数の市民に与えた苦しみに対して、十分に取り組んだといえる国は、まだどこにもありません」と歴史の清算が欧米諸国にとっても依然として大きな課題として残っていることも指摘している。実際に、今回署名した学者の中には、アメリカによる広島・長崎への原爆投下に批判的な学者や、アメリカの人種政策の問題点を指摘し続けている学者らも多く、決して日本批判を目的とした声明という単純な内容にはなっていない。
われわれ日本人はこの声明文をどう受け止めるべきか。ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。