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野田佳彦首相の16日の事故収束宣言以降、首相や原発担当相の発言を通じて、ようやく政府の主張する「冷温停止状態」や「事故収束」の真意が見えてきたが、しかしそれは実際の冷温停止や収束とは程遠いあくまで「推定冷温停止」の域を出ないものであることが明らかになった。
野田首相は16日の記者会見で、福島第一原発の1〜3号機の原子炉が「冷温停止状態」にあるとし「事故収束」を宣言した。その記者会見でビデオニュース・ドットコムは、原子炉内の核燃料がどのような状態にあるかも分からない状況でなぜ収束などと言えるのかを首相に問うたが、明確な回答を得ることはできなかった。
週末を挟んだ19日、外国特派員協会で行われた会見で「冷温停止状態」の真意を問われた細野豪志原発事故担当相は、現在核燃料が圧力容器内にあるか格納容器内にあるかまたは格納容器の外にあるかは分からないことを認めた上で、燃料がどこにあるにしても、注水によって核燃料が安定的に冷却できていることがさまざまなデータによって確認されていることから、「冷温停止状態」を宣言したと説明している。
細野氏はまた政府の言う「冷温停止状態」が、原発の技術用語である「冷温停止」とは異なるものであることも、認めている。
本来の冷温停止は原発に制御棒が挿入され原発のスイッチがオフになっている状態で、圧力容器内の水の温度が100度以下に保たれ、核燃料が安定的かつ継続的に冷やされていることを言う。福島第一原発1〜3号機では核燃料が溶融(メルトダウン)し、圧力容器を突き破って外部に出てしまうメルトスルーが起きている可能性が高いことを、政府も東電も認めているため、圧力容器の中に核燃料があることを前提とした本来の冷温停止はもはやありえない。
しかも、核燃料が今どこまでメルトスルーし、どのような状態にあるかは確認できていないことから、日本政府は新たに「冷温停止状態」という造語を作り、それを「圧力容器底部の温度が100度以下で新規の放射能の放出が一定量以下」などと独自に定義していた。
それにしても、燃料が今どのような状態でどこにあるかすらわからっていないにもかかわらず、冷温停止だの収束だのといった言葉は、一体どこから出てくるのだろうか。
細野氏や東電の説明を聞く限り、今のところ現在の注水方法で核燃料は安定的に冷やせている「小康状態」にあると推察できるが、核燃料がどこでどのような状態にあるかはわからないため、予断を許さない状態にあるというのが、現実的な表現なのではないか。つまり、政府の言う冷温停止状態とは、燃料の状態や場所はわからないが、外部から確認できるデータから、おそらくそれは安定的に冷やせていると推察できる、あるいはそのような状態がしばらく続いているというだけの、推定冷温停止だったのだ。
それを「冷温停止状態」などという紛らわしい言葉を持ちだして無理やり事故が収束したかのような宣言を急ぐ理由はどこにあるのか。背後にあるものは、事故が収束したかのように見せかけることで国民の心理的な安心を回復し、原子力政策を続けていこうとする政府の思惑なのか。
仮に運良く現時点では核燃料がうまく冷やせている状態が続いているととしても、本来は圧力容器や格納容器によって多重的に隔離されていなければならない核燃料が露出している状態にあることには変わりがない。今後何らかの理由で現在注水を続けている水がすべての核燃料に届かなくなるようなことがあれば、ただちに大惨事につながる危険とは依然として隣り合わせだ。
「冷温停止状態」「事故収束」宣言をめぐる問題点を、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。