日本は次の感染症への備えはできているか
弁護士
1972年福岡県生まれ。95年東京大学経済学部卒業。2000年同大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。日本銀行金融研究所客員研究生、横浜国立大学大学院国際社会科学研究科助教授、慶應義塾大学経済学部准教授などを経て14年より現職。著書に『いまこそ税と社会保障の話をしよう!』、近著に『欲望の経済を終わらせる』など。
東京での新規感染者が一桁台になるなど、新型コロナウイルスの感染拡大も当面は収束しつつあるかに見える。早ければ来週25日にも首都圏と北海道の緊急事態宣言が解除される見込みで、世界中で市民生活を一変させた新型コロナウイルスは、感染リスクがゼロにはならないまま、これから社会がどういう形で活動を再開してゆくのかに焦点が移りつつある。
一方で、緊急事態宣言下の経済への打撃はリーマンショック時よりも大きいと言われ、今後、倒産や失業がさらに増えることが危惧されている。財政学が専門の井手英策・慶應義塾大学経済学部教授は、経済活動を休止することの影響が十分に考慮されないまま、もっぱら感染症対策としての自粛要請を優先させてきた結果、今後その影響が市民社会に大きく降りかかることは避けられないだろうと語る。
安倍首相は日本が欧米諸国並の厳しいロックダウンをせずにコロナの抑え込みに成功しつつあることが、あたかも日本の美徳であるかのように自慢をするが、そもそも政府の自粛要請に国民が応じることが事実上の義務となっている日本のロックダウンのあり方は、権利としての休業補償を受けられることが前提にある欧米諸国のロックダウンとは根本的な違いがある。補償がないまま経済活動の凍結を強いられる今回の日本の「自粛要請」は、いみじくも日本のセーフティネットの脆弱さを浮き彫りにする結果となった。
5月22日には、首相が議長を務める全世代型社会保障検討会議が開催され、今後の社会保障について議論が交わされているが、その議事内容を見る限り、緊急事態宣言下で露わになったセーフティネットの根本的な欠陥を本気で補修していこうとしているとは到底思えない。
コロナ以前から毎年セーフティネットを縮小しつづけてきた日本は、ポストコロナの時代に入ってもその路線を踏襲し続けるのでいいのか。仮に公助を削るのであれば、その間、日本はより大きな自助や共助が可能な社会を作ってきたのか。これからの日本にはどのような選択肢があるのか。税と社会保障のあり方について提言を続けてきた井手氏と社会学者の宮台真司とジャーナリストの迫田朋子が議論した。