政治権力に屈し自身のジャニーズ問題とも向き合えないNHKに公共メディアを担う資格があるか
ジャーナリスト、元NHKチーフ・プロデューサー
1959年大阪府生まれ。81年京都大学教育学部卒業。同年朝日新聞入社。企画報道部次長、総合研究本部メディア研究担当部長、メディア担当編集委員などを経て、2019年5月より現職。著書に『変容するNHK』、『ニューメディア「誤算」の構造』など。
先の参院選で「NHKをぶっ壊す!」のスローガンで耳目を集めた「NHKから国民を守る党」が、比例区で100万票近い票を獲得し、政党要件を満たすまでの支持を集めたことで、改めてNHKのあり方に注目が集まっている。
そこで今週のマル激では現在のNHKにどのような問題があり、「NHK問題」の核心とは何かを議論した。
まず結論から言うと、NHK問題の核心は、現在のNHKという特殊法人のガバナンスの仕組みが、明らかな利益相反を前提としたものになっており、にもかかわらずそれを克服したり、超越したりできるような制度的な担保が存在しないことにある。
受信料という安定的な収入を得る代わりに、毎年の予算と会社の取締役にあたる経営委員会の委員の人事について国会の承認を必要とする。NHKは、当然時の権力の介入を受けやすい立場にある。それが番組の編成や内容にまで影響を与えるようになれば、公共放送としての役割を全うできなくなるのは当然だ。
その一方で、NHKは時の権力にすり寄っている限り、年間7,000億円もの収入をもたらしてくれる現在の受信料制度は安泰となり、民放が四苦八苦するのを横目に、NHKはやりたい放題ができる。そして、それがNHKの放漫財政の原因になったり、綱紀の緩みを生み不祥事が相次ぐ原因になっていたり、公共放送本来の役割を超えた番組や事業にまで手を伸ばすことで民業を圧迫する原因となっている。
つまり、NHKは政治権力の介入を受けやすいと同時に、政治権力に迎合している限り、企業としての立場は安泰だが、その一方で、それでは公共放送としての役割が果たせず、NHKの存在意義自体が揺らいでしまうという究極のジレンマを抱えている。時の権力に擦り寄ったり、圧倒的な財力を使って民放のビジネスを侵害するような番組を放送すればするほど、NHKは公共放送本来の役割から遠ざかっていくことになる。
本質的に利益相反が避けられない立場にあるNHKが、公共放送本来の責務を果たしていくためには、何を変える必要があるのか、もし今のままの体制が続くのであれば、本当に日本にNHKのような放送局は必要なのか。
メディア問題の専門家で近著『変容するNHK』でNHKに対する政治介入の歴史に焦点を当てた川本氏と、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。