結局国葬の何が問題なのか
東京都立大学法学部教授
1980年神奈川県生まれ。2003年東京大学法学部卒業。同大学法学政治学研究科助手、首都大学東京都市教養学部准教授を経て16年より現職。著書に『自衛隊と憲法─これからの改憲論議のために』、『木村草太の憲法の新手2』など。
7月21日、日本は参議院選挙の投票日を迎える。
無風と言われる参院選だが、この選挙がわれわれに問うているものは、決して小さくはない。
各党がパンフレットなどで公約を発表しているが、マル激ではあえて今回改選を迎える参議院が、6年の任期中にどんな法律を通してきたかをチェックしてみた。公約は実現するかどうかわかったものではないが、過去6年の実績は否定しようがないからだ。この選挙で自公が引き続き参院の過半数の議席を守れば、これからも日本はここ6年間歩んできた道のりの延長を進むことになる。また、仮に過半数割れにまでは至らなくても、与党側が一定数以上の議席を減らせば、少なからず有権者はこの6年の日本の針路に異議を申し立てたことになり、政権はその路線に修正を加えることが求められる。
2013年から2019年の6年間で、参議院は実に多くの法案を可決してきたが、中でも特に重要性の高い法案に着目すると、この6年間の日本の道程とその針路が鮮明に浮かび上がる。
まず、この6年で与党は6本の法案を強行採決している。その6本とは特定秘密保護法、安保関連法、労働者派遣法等改正、共謀罪・テロ等準備罪、働き方改革関連法、入管難民法改正の6本だ。いずれも、アメリカの意向や経済界の意向を強く反映する一方で、報道の自由や人権に対するリスクを増大させたり、弱者のセーフティネットを弱体化させる性格を持つ法案だった。
また、加計学園への獣医学部認可の舞台となった国家戦略特区を創設する法律、司法取引の導入や盗聴権限の大幅拡大など検察の権限を大幅に強化する刑事訴訟法・通信傍受法の改正、日本の種を守ってきた種子法の廃止法案、外資の参入に道を開ける水道民営化法、依存症問題を棚上げしたまま大規模なカジノの建設を可能にするカジノ・IR法など、日本の民主主義のあり方や人権に対する姿勢、日本社会の保全に関わる重要な法案はほぼ例外なく、野党がこぞって反対する中、与党の賛成多数で可決している。重要法案と言えるもので与野党がともに賛成した法律は、非嫡出子の相続差別を撤廃したり再婚禁止期間を短縮する民法の改正案と、公職に立候補する候補者の男女の均等を求めるパリテ法くらいのものだ。
首相の指名は衆院の議決が優先されることが憲法で定められているため、参院選は政権選択選挙とはならない。しかし、今回改選を迎える参議院がこうした法案を通してきたことは紛れもない事実だ。それをどう評価するかが、各有権者に問われている。
この選挙はまた、参院でいわゆる「改憲勢力」と言われる政党が参院の3分の2以上の議席を獲得するかどうかが、隠れた大きな争点になっている。自民、公明、維新らで参院の3分の2を押さえれば、既に衆議院でも3分の2を持っていることから、憲法改正案を発議する力を得ることになる。安倍政権が憲法改正に強い意欲を見せていることから、選挙明けの政局では憲法改正が最大の政治課題として表面化してくる可能性が十分考えられる。
現時点で自民党は、憲法9条に自衛隊を明記する案と、非常時に国会が召集できない場合は内閣だけで法律を作れるように緊急事態条項を改正する改憲案を出してきている。いずれも国の形や性格に大きな影響を与える重大な変更になる。
憲法学者の木村草太・首都大学東京教授は、自民党の9条改正案は現在の自衛権の範囲を大きく拡げることになり、緊急事態条項は全権委任条項になりかねない危険性をはらんでいると指摘する。
参院6年の実績と自民党憲法改正案をどう評価すべきかについて、木村氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。