トランプのカムバックはアメリカと世界をどう変えることになるか
上智大学総合グローバル学部教授
1965年静岡県生まれ。90年上智大学外国語学部卒業。同年中日新聞社入社。94年退職。97年ジョージタウン大学大学院政治学部修士課程修了。2007年メリーランド大学大学院政治学部博士課程修了。文教大学准教授などを経て14年より現職。著書に『アメリカ政治とメディア』、共著に『トランプの勝利は偶然か必然か?』など。
トランプがやって来た!
恐らくこの週末、日本はトランプ大統領と安倍首相のゴルフや相撲観戦や炉端焼きだののニュースで盛り上がっているに違いない。(そういえば前回は鯉の餌やりだった!)その間、大統領のセキュリティに万全を期すため、首都高速は閉鎖されるというし、相撲も千秋楽だというのに、日本政府は大統領ご一行のために正面の升席(1階席)をすべて買い上げた上で、今場所だけ特別に米大統領杯なるトロフィーが優勝力士に贈られるという。そのあまりに過度な歓待ぶりは、宗主国の元首を迎える植民地のようだと言ってしまっては言い過ぎだろうか。
国内的には特別検察官の報告書が出た後もロシア疑惑を収束させることができないまま、先の中間選挙で民主党に過半数を奪われた下院から次々と攻勢を受け、対外的には対中国、イラン、北朝鮮などの多くの難題を抱えるトランプにとって、今や主要国の中では唯一と言っても過言ではない友好国の日本で肝胆相照らす仲となった安倍首相から接待を受けながら過ごす3日間は、決して気分の悪いものではないだろう。
もちろん、2ヶ月後に国政選挙を控えた安倍首相の方も、様々な政治的思惑から、米大統領との蜜月ぶりを国内外にアピールしたいのは当然だろう。
しかし、安倍首相個人にはメリットがあるとしても、日本は今回の大統領の訪日から何を得ているのだろうか。警備に莫大な税金を使い、交通規制によるトランプ渋滞を甘受しなければならないわれわれ国民には、どんなメリットがあるのだろうか。
かつてアメリカの大統領は、日本にとっては唯一の同盟国の国家元首であると同時に、自由主義陣営の盟主として、民主主義や人権や自由貿易の価値を象徴する存在だった。そのような人物と肩を並べることには、日本にとっても大きな意味があった。
しかし、トランプという政治家はことごとくその価値規範を壊してきた人物だ。その大統領とツーカーの関係にあることを世界に見せつけることは、単に世界最大の軍事大国と蜜月関係にあることを意味するにとどまらない。日本もまた、伝統的な自由民主的価値を軽視している国と受け止められる危険性があることは覚悟しなければならない。
そのような危険を冒してまでトランプ大統領と個人的に昵懇の関係にあることを世界にアピールすることの日本にとって意味を、われわれはもう少し真剣に考えてみる必要があるのではないか。
トランプ大統領という存在が背負っているもの、そしてそれを全面的に受け入れることの意味、また来年の大統領選挙でトランプに挑戦することになる23人の民主党大統領候補の中から注目の候補などを、希代のアメリカウォッチャーの前嶋氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。