自民党総裁選から読み解く日本の現在地とその選択肢
法政大学法学部教授
1968年東京都生まれ。92年東京大学文学部卒業。同年、朝日新聞社入社。LSE(ロンドン政治経済学院)修士課程修了。経済部、政治部、AERA編集部などを経て現職。著書に『不思議の国会・政界用語ノート』、『女は「政治」に向かないの?』など。
来週の木曜日に自民党の総裁選挙が行われ、自民党の次期総裁が決まる。第一党にして国会の過半数の議席を持つ自民党の総裁が、内閣総理大臣を兼ねることは言うまでもない。その意味で、20日に行われる自民党総裁選は日本の総理大臣を選ぶ選挙ということになる。
しかし、一国の最高権力者を選ぶ選挙の割には、何とも盛り上がりに欠ける。早くから国会議員票の8割以上を押さえた安倍首相の三選が確実視され、今となっては、石破氏が党員票をどの程度集めるかのみに興味の焦点が移っている。日本の首相を選ぶ選挙が、これで本当にいいのだろうか。
過去四半世紀にわたり日本は、個々の政治家から政党へ、官僚から首相へと、政治権力の集中を進めてきた。中選挙区制の下、派閥や族議員が跋扈していた時代は、ロッキード事件やリクルート事件などで金権政治が批判され、個々の政治家が集めることができる政治資金に厳しい制限が課せられる一方で、政策論争を喚起するとの触れ込みで、小選挙区制や政党交付金などが導入されてきた。
また、バブルの崩壊や住専、薬害エイズや大蔵官僚のノーパンしゃぶしゃぶ接待など、官僚による失政や不祥事が相次いだことで、官僚主導の政権運営が批判を受け、政治権力を首相官邸に集中させる「改革」が相次いで打ち出された。
今や首相は、官邸官僚と呼ばれる省庁の中でも最も大きな権限を持つ独自の手勢を持ち、内閣人事局や日本版NSC(国家安全保障局)、経済財政諮問会議などを通じて、官僚の人事から予算編成、外交・防衛にいたるまで、ほとんど全ての分野で絶大な権力を行使できるようになっている。官邸の人事権は裁判所や捜査機関にまで及ぶこともあり、未だかつて無いほど、首相の権力をチェックしたり制御することが難しくなっていると言っても過言ではないだろう。
そのような状況の下で、自民党内は安倍首相が有利と見るや、各派閥は雪崩を打って安倍支持を表明。自民党の国会議員405人のうち、ここまで分かっているだけでも、約350人が安倍支持で固まってしまった。絶大な権力を持つ首相を敵に回しても、何の得にもならないという判断が働くのは、権力に人一番敏感な政治家であれば、無理からぬことなのかもしれない。
しかし、果たして現在のこの状況は日本にとって好ましい状況なのだろうか。われわれは権力の集中を図る一方で、それをチェックしたり制御するための仕組み作りを怠ってきたのではないか。一度権力を手にした者が、自らその権力を手放すことは考えにくい。当然その権力を使って、更なる権力の拡大やその永続化を図るのが、権力の常であることは、多くの先達たちが警告してくれているはずだ。
政策的に、あるいは人間的に安倍首相に親近感を覚え、これを政治的に支持すること自体には、何ら問題はない。しかし、われわれが委譲した権力が公正に行使されているのか、またそれは然るべきチェックを受けているかどうかは、それとは別次元の問題だ。また、絶対権力の前で、ジャーナリズムがきちんと機能していると言えるかどうかも、問われる必要がある。
自民党総裁選から見えてくる今の日本の政治の現状を、政治やNPOを長年ウオッチしてきた秋山氏と、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。