李明博の韓国はどこへ向かっているのか
東京大学大学院総合文化研究科教授
1960年静岡県生まれ。83年東京大学法学部卒業。92年韓国高麗大学大学院修了。93年東京大学大学院法学政治学研究科博士課程単位取得退学。政治学博士。専門は朝鮮半島情勢。法政大学法学部助教授、東京大学大学院総合文化研究科助教授などを経て、2014年より現職。2002~03年ハーバード大学イエンチン研究所客員研究員。著書に『ナショナリズムから見た韓国・北朝鮮近現代史』、『朝鮮半島と東アジア』、共著に『金鍾泌証言録』など。
米朝首脳による歴史的な会談が実現した。
北朝鮮の核・ミサイル開発をきっかけに、一時は「斬首作戦」だの「鼻血作戦」だのといった物騒な話が飛び交い、一触即発の事態にまでエスカレートしていた両国の関係が、ひとまずこれで沈静化することは間違いなさそうだ。
首脳会談に続いて両首脳が署名した共同声明については、具体性に欠けた曖昧な表現が多いなどの厳しい評価も聞かれる。また、北朝鮮があれだけ苦労して獲得した核兵器を簡単に手放すはずがないとの指摘も根強い。しかし、その一方で、北朝鮮の一連の外交攻勢は明らかに過去のものとは一線を画しており、金正恩が核の放棄と引き換えに北朝鮮の経済発展を真剣に考えているのではないかと指摘する識者も多い。
朝鮮半島情勢が専門の木宮正史・東京大学大学院教授は、金正恩は核を持ち続けることで国際社会から経済制裁を受け、このまま極貧な状態を続けるか、核を放棄することで経済発展を実現するかの二者択一の中で、後者を真剣に考えている可能性が高いとの見方を示す。北朝鮮は一貫して朝鮮半島の統一を訴え続けているが、20倍を超える現在の北朝鮮と韓国の経済格差がある限り、仮に統一が実現することになっても、北朝鮮主導の統一など望むべくもないことを、金正恩はよく理解できていると思われるからだ。
ことごとく国際合意を反故にしてきた北朝鮮のこれまでの実績を見る限り楽観論は禁物だが、もし北朝鮮が本気で核の放棄に乗り出し、その引き換えに経済発展に舵を切った場合、直ちに統一国家の出現にまでは至らないとしても、東アジアの地政学的バランスは大きな影響を受けることになるだろう。
これまで外交的にはアメリカ一辺倒で来た日本にとっても、人口7600万人(北朝鮮が2500万人、韓国が5100万人)を抱え、インフラを含めあらゆる面で開発が遅れている新たな隣国が出現することの影響は大きい。
また、会談後の記者会見でトランプ大統領は、コストを理由に米韓軍事演習の中止にまで踏み込んでいる。今後、在韓米軍の縮小や撤退が議論されることになる可能性も出てきたが、そういうことになれば、在日米軍のあり方や日本の安全保障体制への影響も必至だ。
首脳会談の実現によって、朝鮮戦争以来60年以上続く米朝の敵対関係の解消、ひいては朝鮮半島の統一の可能性は見えてきたのか。それは日本にとってどのような意味を持つのか。米朝首脳会談の和解ムードが東アジアにもたらす長期的な影響について、木宮氏にジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が聞いた。