孤独・孤立対策推進法が成立した今こそ政府の本気度が問われている
認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長
1977年山口県生まれ。2000年早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。02年英・エセックス大学政治学部修士課程修了。08年英・サセックス大学社会科学部研究科博士課程修了。博士(開発学)。国際基督教大学(ICU)助手などを経て12年より現職。著書に『カタツムリの知恵と脱成長』、共著に『21世紀の豊かさ』など。
マル激は毎年、1月初旬に、その年に通底する大きなテーマを選んで番組化している。2018年はずばり「関係性の豊かさ」をテーマに据えた。
国際基督教大学(ICU)非常勤講師で社会哲学や開発学が専門の中野佳裕氏は、物質的な豊かさを求めるあまり、かつて人間が当たり前のように持ち合わせていた精神性と関係性の豊かさが失われているところに、現代社会の根源的な病理があると指摘し、「関係性の豊かさ」を取り戻すことの重要性を強調する。
中野氏はかつて「富」や「貧困」という言葉が、必ずしも経済的な豊かさや欠乏を意味するものではなかったことを指摘した上で、近代ヨーロッパで資本主義経済が台頭した結果、簡素な生活の中に見出せる精神的な自由や、限られた資源や富を分かち合って暮らす自立共生的な生活倫理が忘れ去られてしまったと語る。その結果、本来well-being(福祉)とhealth(健康)を組み合わせた意味を持っていたwealth(富)が、単に経済的な量を意味する言葉になってしまい、あらゆる豊かさの大前提だった人と自然や、人と人の関係性に対する価値観が失われてしまった。
中野氏は人類が経済的な富の際限なき追求を卒業し、関係性の豊かさを求める人間本来の生き方を取り戻すためには、近代文明が否定してきた「共通善」の思想を未来社会の礎として肯定する必要があると言う。
無論、グローバル化が進み社会が極限まで流動化した今日、人類共通の共通善や、国、あるいは地域社会の共通善を見つけていく作業は決して容易ではないだろう。しかし、何が事実なのかさえ合意できなくなったポスト・トゥルース時代をこのまま突き進めば、その先には断絶や対立しか待ち受けていないことは明らかだ。誰かがどこかで何かから手を付け始めなければ、何も始まらない。
2018年最初のマル激は「関係性の豊かさ」の重要性といかにそれを回復するかについて、中野氏とジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。