トランプのカムバックはアメリカと世界をどう変えることになるか
上智大学総合グローバル学部教授
1965年静岡県生まれ。90年上智大学外国語学部卒業。同年中日新聞社に入社。94年退職後、97年ジョージタウン大学大学院政治学部修士課程修了(MA)。2007年メリーランド大学大学院政治学部博士課程修了(Ph.D.)。文教大学准教授などを経て14年より現職。著書に『アメリカ政治とメディア』、共著に『オバマ後のアメリカ政治』など。
トランプ大統領が来日する。
昨年の11月8日の世界に衝撃を与えたあの大統領選の勝利から約1年。人類史は「トランプ前」と「トランプ後」に分類されるようになるだろうと言われるほど、トランプ政権の誕生とその後の政権運営は、アメリカのみならず、世界の民主主義に対する見方に大きく影響を与えている。
インターネット全盛の21世紀、自由や民主主義の行き過ぎがトランプのような指導者の台頭を生んでしまうのだとしたら、われわれはこれまで無条件に尊いものと考えられてきた自由や民主主義を、もう少し制限すべきではないかという議論まで、真剣に交わされるようになっている。
予想通りと言えば予想通りかもしれないが、トランプ政権の10か月は、アメリカ史のみならず世界の民主主義の歴史の中でも、いまだかつて経験したことがないような異常な10か月だった。選挙戦では暴言を繰り返すことで人気を博してきたトランプだったが、いざ大統領になればもう少し大人しくなるだろうという玄人筋の期待を見事に裏切り、トランプ政権は発足当初から数々の波乱に揺れまくった。
ホワイトハウスの側近は、選挙戦でのロシアとの不適切な接触などが取り沙汰され、次々と辞任した。今やトランプ政権は無条件の忠誠心が期待できる親族と、どんなに不満があっても規律を守ろうとする軍人によって、辛うじてその機能を維持しているような状態だ。
また、トランプ政権は議会との調整能力の乏しさゆえに、法案らしい法案は何一つ通せていない。しかし、この間トランプは、議会の承認を必要としない大統領令を連発することで、選挙戦での公約のいくつかを実行に移している。その中には移民や難民の流入制限やTPPからの離脱、NAFTAの再交渉、パリ協定からの離脱、イラン核合意の破棄、ユネスコからの脱退など、国際社会に影響の大きいものが多く含まれている。
また、国内向けには、オバマ前大統領が作った医療保険改革「オバマケア」の廃止に躍起になるものの、なかなか代替案を提示できず右往左往してきたが、その間も、人種差別や白人至上主義に寛容な姿勢を示すなど、トランプに対して多くの識者たちが抱いていた懸念は、ほぼ丸ごと的中してしまった。
既存の政治システムに対する未曾有の不信感が、トランプ政権を生んだと説明されることが多いし、恐らくそれはそれで正しい分析なのだろう。しかし、トランプが既存の政治秩序を次々と破壊する中、その代わりにどのような理念に基いたどのような政治体制が立ち上がってきているのかが、依然として見えてこないところが気になる。
また、各国の首脳がトランプの言動に苦言を呈する中、日本の安倍首相だけがトランプとツーカーの関係を維持していることにも注意が必要だ。人種差別や性差別を容認し、人権を軽視すると見られている大統領と仲睦まじくゴルフに興じる日本の首相の姿が世界に報道される時、日本という国の品位や人権感覚にまで世界から疑いの目が向けられる恐れは十分にある。
トランプ政権の誕生でアメリカの社会や世界とアメリカの関係はどう変質したのか。日本はこのままトランプ政権と一蓮托生の道を歩んでいて本当に大丈夫なのか。アメリカ政治が専門の前嶋氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。