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2016年12月24日公開

日本の根本問題から逃げ回る最高裁とこの国のかたち

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第820回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2020年01月01日00時00分
(終了しました)

ゲスト

1980年神奈川県生まれ。2003年東京大学法学部卒業。同大学法学政治学研究科助手、首都大学東京都市教養学部准教授を経て16年より現職。著書に『憲法の創造力』、『憲法の急所』、『平等なき平等条項論』、共著に『憲法という希望』など。

著書

概要

 今回は首都大の木村草太氏をゲストに、前半は「ニュースマル激」を、後半は「映画マル激」の2部構成でお送りする。前半のニュースマル激では「『生前退位は特例法で』で本当にいいのか」、「沖縄の基地問題から逃げ続ける最高裁」、「元国立市長への個人賠償請求は妥当か」の3つをテーマに、そして後半の映画マル激では「君の名は。」「この世界の片隅に」「聲の形」の今話題の3つのアニメ作品を取り上げた。

 「『生前退位は特例法で』で本当にいいのか」は、高齢を理由に生前退位の意向を示した今上天皇のお気持ちに応える形で、政府の有識者会議が特例法方式で退位を可能にする提言をまとめる線で固まったことが報じられていることを受け、1)それで陛下の問題提起に応えていると言えるのか、2)皇位の継承は皇室典範で決めることを明確に定めている憲法2条に抵触する恐れはないのか、の2点を中心に議論した。

 特に今上天皇が自身の健康上の不安のみならず、象徴天皇としての役割を果たして行く上で現行制度には不備があることを間接的な表現で指摘しているにもかかわらず、有識者会議や政府がこれを今上天皇だけの個人的な問題として処理することで、本質的な問題から逃げようとしている点を問題視した。

 また憲法問題については、仮に特例法方式に憲法違反の疑いがあったとしても、天皇が違憲訴訟を提起することはできないため、それが最高裁で違憲と判断されることはない点を重視。憲法審査の対象にはなり得ないからこそ「万が一にも違憲の誹りを受けるようなことがあってはならない」との視点から、天皇制に関わる立法を行う際は憲法との整合性により厳しく拘る必要性を議論した。

 「沖縄の基地問題から逃げ続ける最高裁」では仲井真前沖縄知事が承認した埋め立て承認を翁長現知事が取り消した決定を巡り、政府が提訴していた問題で、最高裁が12月20日、取り消しを違法とする決定を下したことの根拠の妥当性を議論した。

 最高裁は翁長氏の承認取り消しの正当性を論じることは避け、「仲井真前知事の埋め立て承認が合理的であれば、それを取り消した翁長知事の決定は違法になる」との論理展開で、前知事の承認に瑕疵はなかったため、よって翁長氏の取り消しは違法との結論を捻り出している。しかし、この裁判は翁長氏の承認取り消しの合法・違法性を裁判であることを考えると、そのような間接的な論理展開には大いに違和感があると言わざるを得ない。

 なぜ最高裁はそのような変化球とも抜け道とも受け取られかねない論理展開を行ったのか。そこには翁長氏の承認取り消しを真正面から扱うと非常に不都合なことが起きるという事情があった。結局、最高裁はこの裁判では国を勝たせなければならないという大前提の下、どうすれば国を勝たせる判決が書けるかを逆算し、このような形で真の争点を迂回した論理構成を採用せざるを得なかったのだろう。最高裁には最初から米軍基地をめぐる問題で、沖縄を勝たせるつもりはなかったのだ。

 また、最高裁はこの裁判で沖縄県が主張していた憲法92条をめぐる論点も、恐らくは社会から注目されることを避ける目的で、その判断だけを判決の8日前の12月12日に別途、紙切れ一枚で公表していた。判決と同時に憲法判断を示せば、その論点もメディアに大きく報じられ、最高裁が重要な憲法判断から逃げたことが白日の下に晒されることになるからだ。実際、最高裁のこの決定を紙面を割いて報じたのは、地元沖縄のメディアだけだった。

 「元国立市長への個人賠償請求は妥当か」では、上原公子元国立市長個人が市長当時の行為をめぐり国立市から賠償請求を受けていた裁判で、12月13日、最高裁が上原氏側の上告を棄却し、上原氏に賠償の支払いを命じる高裁判決が確定したというもの。

 不動産デベロッパーの明和地所が、国立駅前の大学通り沿いに18階建(後に14階建に変更)の高層マンションの建築を計画していたことに対し、景観重視を訴える当時の上原市長が、これを阻止するために行った様々な妨害行為の中に違法なものがあったと判断され、国立市は2008年に明和地所に約3120万円の賠償金を支払っていた。

 この裁判は国立市の4人の市民が、この損害の弁済を上原氏個人に求めるよう国立市を提訴し、その裁判で勝訴したことを受けて、国立市が上原氏に損害額と同額の支払いを請求していたというもの。

 当時市長だった上原氏が、景観保護を理由にマンション建設を阻止するために行った数々の行為の中には、問題があるものがあったとは言え、それによって生じた事業者の損害を元市長個人が賠償しなければならなくなったことで、今後、自治体の長の政治活動に萎縮効果が生じることが懸念されている。

 確かに、上原氏が行った行為の中には、市長として知り得た高層マンションの建設計画を市民に漏らすことで反対運動を誘発したり、「水道を止める」と威嚇するなど、市長の権力を使った圧力とも受け取れる発言を行うなど、市長として行き過ぎの面があったことは否めない。しかし、それはあくまで市長が、国立の大学通りの景観維持という公益的な政治目的のために行ったことであり、市長自身が私服を肥やしたり政敵を潰すなど、誰が見ても不適切な目的のためではなかった。にもかからわず、利子を含めると4000万円を超える請求を市長個人にするというのは適切な判断と言えるだろうか。

 この判決で国立市が上原氏個人に対する求償権を認める根拠となった、国家賠償法が定めるところの市長の「重大な過失」とは何だったのか。首長はどのようなことをやれば個人で損害賠償の義務を負うことになり、どこまでならば「政治目的」や「公益的」として違法性が阻却されるのか。築地市場の豊洲への移転を独断で延期したことで、事業者に対して補償の責任を負うことになる東京都の小池都知事は大丈夫なのか。浜岡原発を止めた菅直人首相が、個人賠償を追及されることはないのか。今後、自治体首長の一つの行動指針となる可能性がある最高裁判決を検証した。

 その他、「君の名は。」「この世界の片隅に」「聲の形」で描かれていたものと、描かれていなかったものは何かなどを、木村氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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