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2016年11月19日公開

ドナルド・トランプという男

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第815回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2020年01月01日00時00分
(終了しました)

ゲスト

1960年山形県生れ。85年早稲田大学政治経済学部卒業。同年時事通信社に入社。ベルリン支局、ウィーン支局、ワシントン支局特派員、編集委員などを経て2015年退社。同年より現職。著書に『世界最強の女帝 メルケルの謎』、『ドナルド・トランプ 劇画化するアメリカと世界の悪夢』など。

著書

概要

 世界の目がたった一人の男に注がれている。

 ドナルド・J・トランプ。この男は果たして希代の戦略家なのか、はたまた単なるナルシストの山師なのか。

 大方の予想に反してドナルド・トランプの勝利に終わった大統領選挙から一週間が過ぎ、目下、世界は選挙戦中にトランプが語った数々の暴論に満ちた政策を本気が実行するかどうかを見極めようと、彼の一挙手一投足を固唾をのんで見守っているようだ。

 トランプ政権下でメキシコ国境の壁の建設をはじめ、イスラム教徒の入国禁止などの移民政策の変更、同盟国に対する防衛負担の増額要求、保護主義の復活などの政策が実際に実行されれば、世界に大きな影響を与えることは必至だからだ。

 目下、世界はトランプ政権の閣僚人事に注目しているようだ。それがトランプ政権の政策を占う上で重大なヒントを与えてくれると思われるからだ。

 しかし、もう一つトランプ政権の行く末を占う上で重要な示唆を与える視点がある。それがドナルド・トランプという人間、そしてその一族の出自や彼自身の生い立ちなどを知ることだ。

 そこで今週のマル激では近著『ドナルド・トランプ 劇画化するアメリカと世界の悪夢』でトランプの出自を詳しく紹介した追手門学院大学経済学部の佐藤伸行教授に、トランプの人物像について聞いた。

 大統領候補としては移民に対する厳しいスタンスを見せたトランプだが、実は彼自身が父方では移民3世、母方では移民2世にあたる。父方は祖父がドイツの貧農の出で、ゴールドラッシュに沸く19世紀後半のアメリカにその他大勢のドイツ移民の一人としてニューヨークに移民してきた理髪師のフリードリッヒが、アメリカに於けるトランプ家の1代目に当たる。母方はスコットランドから移民してきたメアリーがトランプの実母だ。

 アメリカ到着後、ドイツ名のフリードリッヒをアメリカ風のフレデリックに変え、床屋で生計を立てていたトランプの祖父は、ゴールドラッシュの最中、ご多分に漏れず、一攫千金を夢見て西海岸に渡り、ホテル業で一代にして財を成す。そして、ゴールドラッシュが終わると、ニューヨークに引き上げてきたが、当時流行りのスペイン風邪のために49歳の若さで他界している。

 後を継いだトランプの父親のフレッドは、ニューヨークをベースに当時人口が急増していたクイーンズ地区に庶民のための低価格の住宅を供給する手堅い建設業を営み、一定の財を成した。しかし、トランプ自身は父親のような地道な事業を嫌い、大規模な開発プロジェクトや著名なホテルやビルの建設に邁進し成功を収める。とはいえ、その成功の陰には物心両面で父親からの強い援助があったという。

 地道な商売で財を成したトランプの父は、ドイツ系の伝統を踏襲し、トランプを厳しくしつけた。当初ニューヨーク市内の地元の中学に通っていたトランプが学校で問題を起こすと、父はニューヨークの郊外にある規律の厳しいことで知られる全寮制のミリタリー・アカデミーにトランプを送り込んでいる。今もトランプの言動やノリに時折顔を見せるやや暴力的な側面は、生徒を力や暴力で抑え込むミリタリー・アカデミー時代に培われたものではないかと、佐藤氏は指摘する。

 ミリタリー・アカデミーを卒業後、当初ニューヨークの地元のフォーダム大学に通ったトランプは、大学3年時にアイビーリーグの名門ペンシルベニア大学のウォートン校に編入する。ところが、トランプの大学時代のエピソードというものが、ほとんど出てこない。アメリカでも多くのジャーナリストが取材を試みたが、大学時代のトランプを知る人がほとんど見つからないというのだ。トランプ自身は大学時代は父親の仕事を手伝っていたので忙しかったと説明しているそうだ。

 不動産事業者としては、1973年のマンハッタンの鉄道操作場跡地の再開発プロジェクトの成功を皮切りに、1980年のグランドハイヤット・ホテルの改築、そして1983年に5番街に立てたトランプタワーなどでニューヨークの大型プロジェクトで次々と成功を収め、時の人に登りつめていく。しかし、不動産業以外で手を出した数多くのビジネスではことごとく失敗しているのも、ビジネスマンとしてのトランプの大きな特徴の一つだ。手を出しながら破産したり、数年のうちに撤退を余儀なくされたビジネスは、カジノやリゾート開発からトランプ・エアライン(航空)、トランプ大学、トランプ・ウオッカ(酒)、トランプ・ステーキ(食品)、トランプ・アイス(氷)、NJゼネラルズ(プロフットボール)と実に多岐に渡る。不動産で大儲けした分の相当部分を他のビジネスの失敗で擂っているという感じだ。それでも不動産事業成功の儲けは莫大なようで、フォーブス誌などによると、現在の保有資産は日本円にして数千億はくだらないだろうという。

 トランプの政治スタイルについて佐藤氏は、意識的に劇画の主人公を演じているのではないかと言う。常に鏡を見ながら仕事をするナルシストの顔を持つトランプが、意識的にレーガン元大統領を模倣していることはよく知られている。選挙スローガンのMake America Great Againもほぼ丸ごとレーガンのパクリだ。

 元俳優のレーガンも大統領選挙への出馬当初はメディアからことごとく馬鹿にされていた。しかし、いざ大統領になると強いリーダーシップを発揮し、歴史に残る名大統領になっている。

 果たしてトランプがレーガンのように大化けする可能性はあるのか。それとも、大統領就任後も誇大妄想のナルシストぶりを発揮し、アメリカのみならず世界を大混乱に陥れることになるのか。トランプの家系や生い立ちに詳しい佐藤氏と、トランプの人物像とトランプ政権の行方について、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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