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2016年11月05日公開

貧困問題の根っこにある老人の貧困という難題

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第813回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2020年01月01日00時00分
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ゲスト

1982年茨城県生まれ。2005年東京国際大学卒業。ルーテル学院大学博士前期課程修了。学生時代よりNPO活動に参加し2011年より現職。聖学院大学客員教授を兼務。厚労省社会保障審議会特別部会委員。社会福祉士。著書に『下流老人 一億総老後崩壊の衝撃』『貧困世代 社会の監獄に閉じ込められた若者たち』など。

著書

概要

 若者の貧困や子供の貧困が取り沙汰される時、決まって「悠々自適な年金生活を送る老人たちが、社会保障財源を食いつぶしている」ことにその原因の一端があると指摘されることが多い。

 しかし、現実には老人の貧困が、深刻の度合いを増しているという。

 今日本の65歳以上の人口は約3400万人。少なくともその2割に当たる約700万人が、生活保護水準以下の貧困状態にあるという。貧困老人の数は実際は1000万を超えるとの推計もある。

 生活保護基準は首都圏では1か月あたりの収入が概ね13万円以下を意味するが、国民年金からは満額でも6万5000円程度しか支給されないため、老後を国民年金のみに依存する独り暮らしの老人の多くが、この所得水準がクリアできていないのだという。

 昨年、著書「下流老人」を著わしたNPO法人ホットプラス代表理事の藤田孝典氏は「下流老人」に共通する条件として3つの「ない」が存在すると指摘する。それは「収入が少ない」「貯蓄がない」「つながりがない」の3つの「ない」だ。

 年金のみに依存している老人の多くは収入が少なく、貯蓄を削って生活するしかない。しかし、平均寿命が男女ともに80歳を超える今日、貯蓄はいずれ底を突くことは目に見えている。しかも貧困老人の多くは、家族や地域とのつながりを失って孤立している場合が多いという。

 埼玉県で困窮支援のNPOを運営する藤田氏の下にも、毎年500人を超える人々が貧困の相談に訪れるが、その約半数が高齢者だという。

 老人が貧困に陥る原因は様々だが、中には現役時代に大企業に勤務し、十分な蓄えと年金がありながら、自身の病気や子供の引きこもりなど、想定外の原因で貧困に陥るケースも少なくないという。その意味で、いつ誰が「下流老人」に陥ってもおかしくないのだと藤田氏は言う。

 また、高齢者の中には所得が生活保護以下の水準にありながら、生活保護だけは受けたくないという人が多いと藤田氏は言う。生活保護を受けている事実を親類に知られたくないことを理由にする人も多いが、生活保護を受けることを無条件で否定的に捉える傾向も、老人ほど強いのだという。そのため藤田氏のNPOを訪れる老人の多くは、既に健康を害していたり住むところも失うなど、もうどうにもならない状態になった人が多いのだと言う。

 「もう少し早い段階で来てくれれば、他に選択肢もあるのですが」という藤田氏は、相談に来た人をまず、藤田氏の団体が運営するシェルターに入れ、生活保護の申請を手伝うところから始めなければならない場合が多いと語る。

 これまで日本は社会保障の多くを、退職金や企業年金、社宅といった企業の福利厚生や、家族の相互扶助に依存してきた。そのセーフティネットが破れた今日、公的社会保障の弱さのツケが多くの高齢者に回ってきている。しかし、高齢者の貧困が手当てされなければ、高齢者から若年層への所得移転も実現しない。結果的に若者や子供の貧困も解決されないという意味で、老人の貧困はすべての貧困問題の根っこに横たわる問題となっている。

 既に貧困に喘ぐ高齢者に対しては、住宅や医療、介護などの付加的な社会保障が不可欠だ。しかし、社会保障を持続可能なものにするためには、高齢者が簡単に貧困に陥ることがないような制度設計が必要だ。それはちょうど、健康を維持するためのコストの方が、病気になった場合の医療コストよりも遥かに安あがりなのと同様に、貧困を放置すればするほど、社会の負担がより大きくなることが、さまざまな調査で明らかになっているからだ。

 藤田氏は「日本人の多くが、困っている人を見ても助ける必要性を感じなくなっている」ところに、貧困対策が進まない原因があるのではないかと指摘するが、実際、この問題は根深く、その解決も容易ではなさそうだ。

 自らが主宰するNPOで日夜、生活困窮者を支援する活動に従事している藤田氏に、深刻化する高齢者の貧困の実態と解決のための可能性を、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が聞いた。

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