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2016年01月23日公開

軽減税率なんてやってる場合ですか

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第772回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2020年01月01日00時00分
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ゲスト

1974年東京都生まれ。97年京都大学理学部卒業。2010年一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。97年大蔵省(現財務省)入省。財務省財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授などを経て13年退官。法政大学准教授を経て15年より現職。著書に『財政危機の深層』、『アベノミクスでも消費税は25%を超える』など。

著書

概要

 日本は軽減税率とかやっている場合なのだろうか。

 今週、甘利明・経済財政担当相の金銭スキャンダルが表面化するまで、国会の予算委員会では軽減税率に膨大な審議時間が割かれていた。そして、1月12日に可決・成立した今年度の補正予算では、中小企業が軽減税率に対応するための相談窓口設置などの費用として170億円が計上されている。

 さらに安倍首相は1月22日の施政方針演説で、2017年4月の消費税率の10%への引き上げと、その際に酒類と外食を除く食品については増税の対象とはしない意向を明言している。

 どうやら政府は本気で軽減税率を導入する気のようだ。

 元々、消費税の増税に際して一部の商品に税率の据え置きを認める「軽減税率」が導入されることの根拠は、消費税の逆進性の緩和だった。すべての消費に均等に課税される消費税は、低所得層の負担が相対的に大きくなる性格を持つため、そこに何らかの手当てをすることが、税制の公平性を担保するためには必要となる。

 しかし、法政大学教授で経済学者の小黒一正氏は、軽減税率では消費税の逆進性は緩和されないと指摘する。特に食品に対する税率の据え置きでは、むしろ低所得者より高所得者を利することになり、低所得層救済の目的とは逆行するという。

 しかも、軽減税率によって、税収が毎年1兆円減る。元々今回の2%の税率の上昇で期待される税収の増加が4.5-5兆円程度とされているので、軽減税率によって消費税増税分はおよそ2割の減収となる。しかも、軽減税率の導入によって2種類の税率が並立することになり、事務負担が大きくなり、脱税も容易になる。さらに、政府が食品と非食品(もしくは外食と非外食)の線引きの裁量を持つことになるため、官僚や政治の権益が大きく膨れるという、マイナス効果も大きい。

 小黒氏は低所得層対策なら、このような複雑怪奇な制度にはせず、単に低所得層を対象に現金給付付き控除をすれば済む話だと語る。

 そもそも日本の財政は、軽減税率などと言っている場合ではない。今週内閣府が発表した「中長期の経済財政に関する試算」では、政府が目指す2020年の基礎的財政収支(プライマリーバランス=借金の元利払い分を除いた財政収支)は、軽減税率の導入によって当初予定を3000億円上回り、6.5兆円の赤字となるという。しかも、これは安倍政権が目指す実質2%以上の経済成長が続き、税収が大幅に増えることを前提としたバラ色シナリオを前提とした試算だ。

 2016年度予算案でも、総額96兆7218億円のうち税収で賄えているのは57兆6040億円に過ぎない。不足分の34兆4320億円は国債、つまり借金によって手当てをしている。国と地方を合わせた日本の長期債務残高は1035兆円に達する見込みで、対GDP比205%は国際的にも例を見ない異常な財政状態となっている。

 これだけの異常な財政状態にありながら、ここまでは1600兆円とも言われる個人金融資産を持つ日本人が国債を買い支えてきたために、まだ日本は危機的な状況には陥らずに済んでいる。しかし小黒氏は、現在のペースで借金が増え続ければ、単純計算でも10年程度で政府の借金が日本人の金融資産を上回り、国債の買い手がつかなくなる可能性が高いという。

 財政赤字から抜け出すためには、歳入を増やすか歳出を減らすしかない。しかし、歳出については、増加分はほとんど社会保障が占めているため、大幅な削減は期待できない。

 一方で、歳入を増やすためには経済成長による税収の自然増を実現するか、増税しかない。経済成長を目指して努力をすることは重要だが、成熟して人口減少局面に入った日本経済を大きく成長させることは難しい。少なくとも大きな経済成長を期待して、税金を下げるようなdeficit gamble(赤字ギャンブル)は、経済成長しなかった時に壊滅的な影響が出るため、無責任な政策だと小黒氏は指摘する。

 無論、増税は誰でも嫌だ。しかし、現在の日本の財政では、国民が受けている公共サービスの水準と、そのための負担とが明らかに釣り合っていないことは認識しておく必要がある。実際、日本の国民皆保険や皆年金など社会保障は世界的に見て「中福祉」以上のレベルにあるが、その対価として国民が支払っている国民負担率は、先進国中最低水準だ。小黒氏は、現在の日本の負担と給付のバランスは「低負担・中福祉」、もしくは「超低負担・中福祉」となっているため、赤字が増えるのは当然だと言う。

 北欧諸国のように医療や大学が無料の一方で、消費税率を25%以上にしている「高負担・高福祉」もある。また、アメリカのように福祉のかなりの部分を民間に委ねることで政府レベルでは「低負担・低福祉」を実現している国もある。さしずめ、北欧モデルとアメリカモデルの間に位置するイギリスやフランスでも消費税率は20%程度にまで引き上げられており、そのあたりが「中負担・中福祉」のバランスとなっているのが、現在の先進国の現状だ。

 現実には今の日本は、現在の中福祉を維持するために国民負担を増やすか、低負担を維持する代わりに、これまでの中福祉を諦めるかの、二者択一が迫られていると言っていいだろう。

 しかし、現在の日本の政治状況では、負担増も福祉の削減も非常に難しい。それは過去の日本の政治が、高度成長の果実を国民にばらまくことで「ポリティカル・キャピタル(=政治的資産)」を稼ぎながら、少しずつ国民に不人気な政策を受け入れさせるというバーター取引の形態をとってきたからだと小黒氏は言う。

 バーター取引の材料だった成長の果実がなくなった今、政府は未来に借金を付け回すことでポリティカル・キャピタルを稼ぎ、それを安保法制や憲法改正といった必ずしも絶大な支持を受けていない政策の実現のために消費している状態と見ることができる。安倍政権が増税にポリティカル・キャピタルを消費してしまえば、長年の野望である憲法改正のための資産が足りなくなってしまうことから、安倍首相は本音では増税を避けたいと考えているに違いない。

 われわれはいつまで未来世代に借金のつけ回すことで、政権による政治資産稼ぎを許すのか。そこで稼いだ政治資産を一体何に使わせているのか。軽減税率導入の問題を入り口に、日本の財政の危機的状況や各国の国民負担の現状、未来世代へのつけ回しで問われる現役世代のモラルの問題を、ゲストの小黒一正氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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