思いやり予算、そろそろやめませんか
軍事ジャーナリスト
1941年京都府生まれ。64年早稲田大学政経学部卒業。同年朝日新聞社入社。社会部記者、編集委員、「AERA」副編集長などを経て2004年よりフリー。米国ジョージタウン大学戦略国際問題研究所主任研究員、ストックホルム国際平和研究所客員研究員、筑波大学客員教授などを歴任。著書に『日本の安全保障はここが間違っている!』、『北朝鮮・中国はどれだけ恐いか』、共著に『Superpowers at Sea』など。
安保法制が成立したことで日本は従来の専守防衛政策から一歩踏み出し、世界地図の上でより大きな軍事的役割を担うこととなったとされる。
4か月にも及んだ安保法制の国会の審議では、法案の中身やその合憲性をめぐる議論に長い時間が割かれた。しかし、そもそも日本の自衛隊に、そのような役割を担うだけの実力や装備が備わっているかどうかについては、ほとんど検証が行われてこなかったのではないか。
そこで今週のマル激では、日本の自衛隊の本当の実力と、現在進行中の「防衛計画の大綱」(大綱)「中期防衛力整備計画」(中期防)の下で進む自衛隊の武器や兵器の装備の実態を、軍事ジャーナリストの田岡俊次氏に聞いた。
冷戦の終結とともに一貫して下がってきた日本の防衛費は安倍政権の発足以降、一転して上昇をはじめ、来年度には初めて5兆円の大台に乗る見通しだという。これは対GDP比では約1%と、先進国の中でも最も低い水準ではあるが、金額としては円安でドル換算の数字が目減りしてもなお、世界で9位につけている。平和憲法を持ち、軍事的には在日米軍に依存しているといわれる日本だが、こと防衛予算を見る限り、世界で有数の軍事大国と言っても過言ではない。
安保法制を受けて、日本の自衛隊がこれまで以上の役割を担う能力を有しているかどうかについて田岡氏は、憲法の制約がある日本は攻撃的な兵器を持たないため、現実的には難しいとの見方を示す。
現在、大綱や中期防の下で整備が進められている防衛装備の強化は、抑止力の向上を前面に掲げている。しかし、そもそも抑止力とは、攻撃した場合にそれ以上の反撃を受ける恐れがあるために、相手に攻撃を思いとどまらせる能力のことだ。日本の自衛隊にそれだけの反撃能力が備わっていない以上、これは根本的に誤った発想だと田岡氏は言う。また、アメリカとより緊密な連携を図ることで、在日米軍が抑止力になってくれるとの希望的な考え方も、米中がまずます緊密の度合いを強める中で、無人島をめぐる紛争で、核兵器を大量に持つ中国に対してアメリカが本気で軍事介入するなどということはありえないと田岡氏は言う。
更に、日本は中国の脅威を意識した島嶼防衛の強化のために、日本版海兵隊とも呼ぶべき「水陸機動団」の創設や水陸両用艇やオスプレイの導入などを進める方針だが、その効果についても田岡氏は、中国の空軍力に対して絶対的な劣勢に立つ自衛隊には制空権を押さえる力が決定的に欠けているため、いずれも現実的ではないと否定的だ。
どうも、抑止力の強化と日米間のより緊密な連携、そして中国を意識した島嶼防衛能力の強化といった現在日本が進める防衛計画そのものが、かなりピンボケなものというのが田岡氏の評価だ。
兵器のハイテク化などを受けて、世界各国が大幅に兵員数を削減する中で、日本だけは今後陸上自衛隊を5千人も増員する予定だということを見ても、日本の防衛力の整備は、自衛隊の予算獲得のために中国脅威論が使われている面があるというのが、田岡氏の見立てだ。
田岡氏は1機で何百億円もする高価なおもちゃを揃えて悦に入る前に、日本はまず国防と安全保障についての基本的な議論をすべきだと主張する。いたずらに危機を煽れば、本来は存在しないはずの脅威が現実のものとなりかねない。「安全保障の要諦は敵を作らないこと」を前提に、日本の国防を考えるべきだと田岡氏は言う。
日本の自衛隊の実力と、目下、防衛予算を増額しながら安倍政権が進める最新式防衛装備の評価、そして日本の国防の真の課題などについて、ゲストの田岡俊次氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。