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2015年11月14日公開

福島の甲状腺がんの異常発生をどう見るか

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第762回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2020年01月01日00時00分
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ゲスト

岡山大学大学院環境生命科学研究科教授

1958年兵庫県生まれ。85年岡山大学医学部卒業。89年岡山大学大学院医学研究科博士課程修了。医学博士。岡山大学医学部助手、同講師などを経て2005年より現職。著書に『医学者は公害事件で何をしてきたのか』、『医学的根拠とは何か』など。

著書

概要

 福島で子どもの甲状腺がんが増えている。

 通常、子どもが甲状腺がんを発症する割合は、100万人に1人ないし2人とされている。しかし、福島第一原発事故の後、福島県が全県民を対象に行っている「県民健康調査」で甲状腺がんと認定された子どもの数は、2012年から2014年初頭の間の調査で明らかになったたけでも、その水準をはるかに上回っている。福島県の検討委員会は2015年8月31日の時点で、事故当時18歳までの子ども367,685人のうち、既に104人が甲状腺がんと認定されたことを公表している。

 疫学が専門で医学博士の津田敏秀岡山大学大学院教授は10月、福島県が公表したデータを元に、福島の子どもの甲状腺がんの発症数が異常に高いとする論文を学会誌に発表した。津田氏の分析によると、福島では日本の平均的な発症率の20倍~50倍の高い確率で、子どもの甲状腺がんが発生しているという。

 津田氏は、福島の子どもの甲状腺がんの発生が異常に高いことは明らかなので、それを前提とした様々な施策がとられるべき段階に来ていると主張する。しかし、県の検討委員会は福島で甲状腺がんが多く見つかった理由は、全県民を対象に調査を実施したために、通常であれば見つかるはずのない症例までが表面化する、いわゆる「スクリーニング効果」が主な要因であるとして、現時点ではこれが原発事故の影響とは考えにくいとする見解を示して、静観する構えを見せている。

 甲状腺がんは、詳細な検査を行えば、通常ではがんとは診断されないものまでが表面化することはあり得るため、一定のスクリーニング効果があることは否定できない。県の検討委員会も、福島の子どもの間の異常発生は、スクリーニング効果によるものか、放射線被曝によるものかの、いずれかしか考えられないことは認めているが、現状のデータだけで被曝の影響と断定するのは時期尚早だとしている。しかし、疫学が専門の津田氏は、福島の発生状況は「スクリーニング効果では説明できない。統計学的な誤差の範囲もはるかに超えている」として、異常発生の事実を認め、直ちに対策を取ろうとしないしない国や県の姿勢を批判する。

 チェルノブイリ原発事故後、ベラルーシやウクライナでは事故後5年目から子どもの甲状腺がんの異常発生が確認されている。そのため、日本では放射線被曝による甲状腺がんの発症には少なくとも4年はかかるとされてきた。今回のデータの元となっている健康調査は2012年から2014年にかけて実施されたものであることから、国や県や多くの専門家は、福島の異常発生は時期が早すぎると考え、放射線被曝が原因とは考えられないとの立場をとっている。

 しかし津田氏は、アメリカのCDC(アメリカ疾病予防管理センター)が、甲状腺がんの最短潜伏期間が大人で2.5年、子どもは1年と報告していることを示した上で、チェルノブイリの周辺で事故後5年目から甲状腺がんが激増したことは事実だが、実際には事故の1年後から甲状腺がんの増加が始まっていたことを、データをもって指摘する。その上で津田氏は、現時点での福島での甲状腺がんの発生状況は、チェルノブイリ事故後の4年間に起きたパターンと酷似しており、日本でも5~6年目から甲状腺がんが急増の恐れがあるとして、早急にその対策を進めるべきだと主張している。

 津田氏の論文に対しては、特にネット上で、これを批判する声が多くあがっている。津田氏はデータを示した上で津田氏の論文を反証していものは見たことがないとして、これを一笑に付すが、日本国内では甲状腺がんに限らず、被曝の健康への影響を指摘すると、必ずといっていいほどこれを批判する声が多くあがり、ネット上では半ば炎上状態になる。

 津田氏は、日本には公衆衛生を正当に評価できる疫学者の数が圧倒的に少ない上、日本の保健医療政策は「立ち話、噂話、陰口、井戸端会議で決まっている」(津田氏)ため、正しいタイミングで妥当な政策を決定することが難しいという。そのため、常に公衆衛生に関する重要な意思決定が先延ばしになり、結果的に被害の拡大を許してきた。その例は水俣病や四日市ぜんそくなど、枚挙に暇がない。しかも、どういうわけが直接の利害関係を有さない一般の世論も、何もしない方の選択、つまり「決定をしないという決定」を支持する傾向がある。

 またマスメディアも、こうした世論の動向に迎合するかのように、困難な問題と向き合うことを避けるところが多い。津田氏の今回の論文も、権威ある疫学の国際的な学会誌で査読を受けた論文として掲載されたものだったことから、海外のメディアでは大きく取り上げられているが、日本国内の扱いはいたって小さい。

 いたずらに不安を煽ったり、根拠もなく問題を過大視するようなことがあってはならないことは言うまでもない。しかし、今日の日本は、専門家が十分な根拠を示した上である指摘を行っていても、特に根拠を示すこともなくそれを否定するような乱暴な言説が当たりまえのように横行し、ぞれが増幅してしまう不健康な社会になってはいないか。その結果として、事実が歪められ、問題への対応が遅れたり被害者が増えるようなことは、なんとしても避けなければならない。

 データが明確に示している福島での甲状腺がんの異常発生を単にスクリーニング効果として片づけ放置することが、現時点での妥当な政策決定と言えるのか。なぜわれわれは判断を下すことがこんなにも苦手で、判断をしないとという判断だけは、こんなにも得意なのだろうか。津田氏の論文が指摘する問題点やそれに対する反論、チェルノブイリ事故による甲状腺がんの異常発生に関するデータなどを参照しながら、ゲストの津田敏秀氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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