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2015年10月10日公開

東芝粉飾問題に見るモノづくり大国日本の終焉

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第757回)

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ゲスト

1961年静岡県生まれ。85年京都大学理学部卒業。87年京都大学工学部原子核工学科修士課程修了。同年日立製作所に入社。長岡技術科学大学客員教授、同志社大学専任フェローを経て、10年微細加工研究所を設立し、所長に就任。博士(工学)。京都大学工学部、大阪大学工学部などの非常勤講師を兼務。著書に『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』、『日本半導体敗戦』など。

著書

概要

 日本がモノづくり大国と呼ばれて久しい。しかし、東芝による「不正会計事件」は、モノづくり大国を支える日本の製造業の土台が、すでに過去のものとなっている実態を浮き彫りにしてしまった。

 日本を代表する総合電機メーカーの東芝は、証券取引等監視委員会による検査で、過去7年にわたり業績を不正に会計処理していたことが明らかになった。東芝が設置した第三者委員会の調査によると、不正に操作された利益は2248億円にのぼり、少なくとも3代にわたり歴代のトップが不正に関与していたという。

 東芝を例に見るまでもなく、かつて1970~80年代に世界を席捲した日本の製造業が、苦境に陥っている。海外の電気店では外国製品、とりわけサムスンやLGなどの韓国メーカーの商品が幅を利かせ、日本製のテレビや家電製品は隅の方で埃をかぶっている状態だという。円高などの外的要因もあろうが、それにしてもなぜ日本の製造業はここまで凋落してしまったのだろうか。

 元日立製作所の半導体技術者で、技術経営分野のコンサルタントとして日本の製造業の事情に詳しい、ゲストの湯之上隆氏は、今回の東芝問題の根底に、日本の製造業が直面する問題の本質が潜んでいると指摘する。

 そもそも今回の東芝の粉飾問題は実際には利益が出なくなっていた半導体、パソコン、テレビ、そして電力インフラなどの重電部門などで、帳簿上は利益が出ているように数字を操作するという、典型的な粉飾の一種だった。

 東芝ほどの名門企業が粉飾に手を染めることになった背後には、社内外に向けられた歪んだ対抗意識や過剰な自負、傲慢なプライドなど様々な要素がある。しかし、更にそれを掘り下げていくと、日本の製造業に共通した重大な問題が見て取れると、湯之上氏は言う。

 それは、現場で「技術」が過剰に信奉され、それが経営にまで影響を及ぼしている問題だという。

 確かに日本の技術は世界でも最高水準にあり、それが70年代、80年代に日本の製造業が世界を席巻する原動力だったことはまちがいない。今でも、コストや時間を度外視して高品質の製品を作らせたら、日本の右に出るものはいないといってもいいほど、日本には高い技術力がある。

 しかし、しかしこの技術に対する過信と、コストと時間を度外視した高品質主義ゆえに、日本の製造業の現場では売れるあてもないまま不必要なほどハイスペックな製品を作り続けることが当たり前になってしまったと湯之上氏は言う。そこに、日本製と比べれば厳密な意味での品質は劣るかもしれないが、そこそこの品質で低価格な韓国や台湾など海外の製品が登場した時、日本製は必要以上に高品質、高スペックで、そして当然のこととして不必要に高価なために、売れない商品となってしまった。

 結局日本の製品は、その高品質によって一度は世界の市場をリードするものの、その後、市場がより成熟してくると、必要最小限の品質で安価な製品に取って代わられるパターンを繰り返す中で、市場のシェアを確実に落としてきたのだった。そしてその根本には「品質では負けない」「技術では負けていない」という技術に対する過信があった。

 また、日本の技術信奉の背後には、日本のメーカーがマーケティングを軽視したこともあると湯之上氏は言う。その国の消費者がどのような機能を持った、どのくらいの価格の製品を求めているかを無視して、単に作る側の思い込みだけで「高品質」「高価格」な製品を作っても、売れるはずがなかったのだ。

 東芝粉飾事件が露にした日本の製造業の現場の荒廃ぶりと、その背後にあるモノづくり神話の崩壊の原因、そしてそこから脱するために日本がしなければならないことなどを、ゲストの湯之上隆氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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