極右勢力に牛耳られたイスラエルはもはや誰も止められないのか
日本女子大学文学部教授
1956年静岡県生まれ。78年中央大学法学部卒業。87年司法試験合格。90年弁護士登録。はやぶさ法律事務所を経て2001年いずみ橋法律事務所開設。早稲田大学大学院法務研究科客員教授を兼務。共著に『難民と人権・新世紀の視座』、『外国人法とローヤリング』など。
日本が安保関連法案の国会審議に揺れる中、シリアなど中東の紛争国を脱出してきた大量の難民をどこの国が受け入れるかが、大きな国際問題として表面化している。
今、最も多くの難民を出しているシリアは2011年に始まった内戦にイスラム国(ISIL)の台頭などが重なり、大半の国民の生活が成り立たない異常事態に陥った。戦闘はシリア全域に広がり、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、400万人以上が国外に脱出したほか、760万人が国内で避難生活を強いられているという。約2240万人のシリアの人口の半数以上が国内外で難民化している、まさに異常事態だ。
難民の大半はトルコ、レバノンなどの周辺国に逃れているが、ここにきて、安全で豊かな生活を求めて欧州、特にEU域内を目指す難民の数が急増し、その受け入れの分担が大きな国際問題になっている。
シリアの難民危機という新たな緊急事態を受けて、欧米諸国は軒並みシリア難民の受入れ枠の拡大を表明している。ドイツではこれまで年間の難民受け入れ総数が1万1千人程度だったところを、今年だけで80万人にまで緊急拡大し、更に今後数年間は毎年50万人規模を受入れる用意があることを表明している。そのほか、フランスも今後2年間で2万4000人、イギリスも5年で2万人、スウェーデンは今年7万4000人を受け入れると表明している。
しかし、豊かな先進国の一員である日本は、このような人道上の緊急事態を、明らかに対岸の火事として傍観する姿勢しか見せていない。現在、日本には400人以上のシリア人が暮らしており、このうち60人以上が難民申請を行っているが、難民として認定されたシリア人はなんと3人にとどまっている。日本の難民受け入れ数は他の先進国と比べると、桁が5つ、6つ足りないのだ。
とにかく日本は難民に冷たい。日本もドイツやフランスと同様に、1951年に合意された「難民の地位に関する条約」の加盟国だが、日本では2014年に5千件の難民申請があったのに対し、認定されたのは11人に過ぎない。安倍首相は軍事面での国際貢献にはとても熱心だが、こと難民受け入れという、現在もっともニーズが高い国際貢献に関しては沈黙したままだ。
難民申請者を支援している弁護士の渡邉彰悟氏は、日本の難民政策の現状を「難民鎖国の状態」と厳しく批判する。日本では難民が「保護しなければならない対象」と見られていないところに、根本的な原因があると渡邉氏は指摘する。日本も加盟する難民条約が、難民の保護を加盟国の義務として定めていることや難民には保護される権利があることへの認識が弱く、あくまで難民は慈悲や憐みの対象にとどまっているというのだ。
難民条約には難民の定義が示されており、加盟国はそれに合致する難民は保護しなければならないと定められている。しかし日本では制度的にも難民は入国管理の対象であり、人道的保護の対象になっているとは言い難い。渡邉氏は日本の難民認定制度が、申請を受ける窓口とその可否を判断する部署が別々で、難民認定を希望する人々の窮状や希望が認定判断に反映されていない点にも制度上の問題があると指摘する。それぞれの部署は同じ法務省内の組織だが、難民希望者と実際に面談したこともない担当者が、書類だけでその可否を適切に判断できようはずもない。しかも、日本の制度では難民であることの証明を、申請する希望者の側が果たさなくてはならないという。取るものも取りあえず国外に逃れたような難民に、自国で迫害されていたことを書類などで証明せよなど、普通に考えるとありえないような建前が、日本ではまかり通ってしまっているわけだ。
また、申請を却下された人が不服を申し立てる異議申し立て制度も、機能していない。不服申し立てを審査するのは有識者からなる難民審査参与員で法曹関係者や行政のOBが多いが、難民法の専門家はごく少数で、難民認定の是非を的確に判断できる体制にはなっていないと渡邉氏は言う。
国際社会がシリア難民問題を契機に負担の分担を始めた今、日本はいつまで難民鎖国状態を続けることができるのか。日本の難民認定制度の問題について、ゲストの渡邉氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。