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2015年03月14日公開

川崎中1殺害事件の教訓とこれから私たちにできること

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第727回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2020年01月01日00時00分
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ゲスト

1960年山口県生まれ。84年筑波大学第一学群社会学類卒業。89年大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程中退。筑波大学専任講師、同大学助教授などを経て2011年より現職。博士(人間科学)。著書に『つながりを煽られる子どもたち』、『キャラ化する/される子どもたち』など。

著書

概要

 川崎市で13歳の少年が殺害された事件は、われわれに何を投げかけているのか。
 2月20日に川崎市の河川敷で、市内の中学1年生、上村遼太君の遺体が発見され、27日には主犯格とされる18歳の少年ら3人の未成年が逮捕された。報道では概ね犯行を認めているという。
 その後、遼太君一家が、1年あまり前に島根県の西ノ島から移転してきたばかりだったこと、遼太君は1月から一日も学校に登校していなかったこと、遼太君は今回の加害少年から繰り返し暴行を受け、顔にアザを作っていたこと、遼太君の家が母子家庭で5人の子どもを抱えた母親は日々の仕事に追われ、子どもの異変に気づかなかったこと、などが明らかになっていった。
 13歳の少年が夜な夜な出かけて行くのを、母親はなぜ止めなかったのか。中学1年生が1ヶ月以上にもわたって不登校だったのに、学校は異変に気づかなかったのか。警察はトラブルの存在を知らされていたのに、なぜ何もしなかったのか、等々、屈託無く微笑む遼太少年の愛くるしい写真を見た人は誰もが、何とか事件を防ぐことはできなかったのだろうかと考えるのは無理のないことだろう。
 実際、政治の世界では18歳の加害少年が少年法で守られていることから、少年法の改正に言及するような動きや、2年前に施行されたいじめ防止対策推進法の不備に言及する向きもあるようだ。自民党の稲田朋美政調会長は、「(犯罪が)非常に凶悪化している。犯罪を予防する観点から今の少年法でよいのか、今後課題になるのではないか」と述べている。
 しかし、事はそんなに単純な話ではない。
 犯罪社会学が専門で、子どもの非行問題などに詳しい筑波大学教授の土井隆義氏は、殺害された13歳の遼太君が、なぜ自分に暴力を振るう年上の仲間たちと一緒にいたのかや、今日、少年らがどういうつながりで日々を過ごしていたのかなどを考える必要があると指摘する。土井氏によると、今日の子どもの世界は「フラット化」していて、かつてのような同世代、同じ学校、同じ部活のようなシステム上の枠でグループを形成するのではなく、特定の趣味や遊びを接点にして年齢に関係なくつながる傾向にあると指摘する。また、「フラットな関係」は、従来のようなボスと子分、先輩・後輩のような明確な上下関係ではなく、流動的に上下関係が移動するのだという。ある時はいじめの加害者だった者が、瞬時にいじめられる側に回ってしまうようなことも、日常的にあるそうだ。
 土井氏はまた、遼太君について周辺の人々が口を揃えて「明るくいい子だった」と語っている点にも着目する。島根県の離島に生まれ、9歳で両親が離婚し母子家庭になり、小学六年になって川崎に引っ越してきたばかりだった遼太君は、学校や家庭では懸命にいい子を演じなければならないと感じていたのではないか。そんな遼太君にとって、年上とはいえアニメという共通の趣味を持つ少年たちのグループが、唯一の居場所となっていた可能性が否定できない。
 土井氏によると、子どもは自分の居場所を確保するために状況に応じたキャラを演じる傾向が強くなっているため、大人側から問題を把握することが困難になっているという。親の前では何も問題はないかのようなキャラを演じ、教師や学校に対しても家庭や友人関係はうまくいっている風を装う。子ども同士においても同様だが、LINEなどのソーシャルメディアを使って関係性を維持することが多く、教室では会話もしないが、実はLINEでは大の仲良しなどという、大人側からは理解しにくい状況にもつながっているという。
 1ヶ月以上も不登校だった遼太君に十分な対応を取らなかったとして、学校の責任を問う声があるが、土井氏はこれに疑問を呈する。今日、不登校の子どもは決して少なくない。また、全休までいかなくても、学校に来たり来なかったりの生徒は多く、よしんば登校してきても、一日中保健室で過ごすよう子どもも少なくないというのが、学校現場の実情なのだという。そのような状況の下で、一人一人の生徒のために学校ができることには自ずと限りがある。
 また13歳の息子の異変に気づかず、殺害された日も夜になって遼太君が外出することを許していた母親の責任を問う声についても、シングルマザーで5人の子どもを抱え、昼間は介護の仕事をし、夜はスナックで働いて家計を支えていた母親を、一体誰が批判できるだろうか。
 むしろ、われわれはそのような状況に置かれている家庭が決して少なくないことに着目する必要がある。そして、そうした助けを必要としている家庭を、社会全体で下支えしていく方法を考えなければならないのではないか。日本の貧困率の上昇が指摘されて久しいが、それでもまだ全体の貧困率は16.1%程度にとどまっている。ところが、ひとり親世帯の貧困率は2012年現在で54.6%に達している。ひとり親世帯の半分以上が、貧困に喘いでいるというのだ。これは子どもの問題ではなく、大人の問題であり、社会の問題として受け止める必要があるのではないか。
 今回の教訓として、個々人レベルでも家庭や団体レベルでも、より広く社会に開いた関係性の構築が必要だと指摘するゲストの土井隆義氏とともに、この痛ましい事件でわれわれ一人ひとりが考えなければならないこととは何なのかを、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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