完全版視聴期間 |
2020年01月01日00時00分 (期限はありません) |
---|
1951年英国ロンドン生まれ。73年ロンドン大学東洋アフリカ研究学院日本語学科卒業。74年来日。音楽出版社、音楽マネジメント会社などを経て86年より報道ドキュメント番組キャスター、ラジオパーソナリティなどを務める。著書に『ラジオのこちら側で』、『ピーター・バラカン音楽日記』など。
5週目の金曜日に特別企画を無料でお届けする恒例の5金スペシャル。今回の5金では「テロとの戦い」をテーマにした映画を取り上げながら、テロの背後にある貧困や歴史の問題やその対応の是非を議論した。
今回取り上げた作品は2013年に日本でも公開された、CIA女性分析官がオサマ・ビンラディンを追い詰めていく過程を描いた『ゼロ・ダーク・サーティ』、ジャーナリストの綿井健陽氏がイラク戦争とその後の混乱に翻弄される家族を10年間にわたり追い続けたドキュメンタリー映画『イラク チグリスに浮かぶ平和』、そして『スーパー・サイズ・ミー』で注目されたモーガン・スパーロック監督の『ビンラディンを探せ!~スパーロックがテロ最前線に突撃!』の3本。いずれもテロやテロリストをテーマに、その最前線や狭間で生きる人々を描いた作品だ。
9・11の同時テロ以前からテロリストの最大の標的となり、テロとの戦いの最前線に立ち続けるアメリカは、今もテロリストの掃討に血道をあげる。その甲斐あってか、9・11以降は大規模なテロの押さえ込みには成功しているように見える。しかし、その一方で、テロとの戦いは、イラクやアフガニスタンの一般市民や、掃討するアメリカ側にも多くの犠牲を生みながら、テロとの戦いは全く出口が見えてこない。同時に、テロとの戦いの当事国では一般市民の犠牲が増えるごとに、イスラム圏ではアメリカや西側諸国への怨念が強まり、それがまた新たなテロリストを生むという悪循環を繰り返している。そして、その悪循環は、遂に中東では「イスラム国」を名乗り、テロ行為を繰り返す擬似武装国家の登場まで許してしまった。
そして日本も遅ればせながら、イスラム国と戦う有志連合に名を連ね、今回の中東訪問でも安倍首相はISISとの戦う姿勢を明確に打ち出している。
確かに、先進国の平穏な市民生活を守るためにはテロリストに付け入る隙を見せてはならないだろうし、暴力には力で立ち向かうことが必要な時もあるだろう。しかし、現在のアメリカの「テロとの戦い」を続けることで、本当にテロを根絶することは可能なのか。
テロの背景にはオスマントルコ崩壊後の欧米諸国による中東地域の理不尽な統治の歴史や、その後の度重なる紛争とその結果生まれている貧困や絶望などが根強く横たわっていると言われる。そのような土壌の上で、アメリカや先進諸国が圧倒的な軍事力に物を言わせた掃討作戦などを強行した結果、イスラム諸国の市民生活が破壊され、一般市民に多くの犠牲者が出れば、それがまた次のテロリストを生んでしまう負のサイクルに陥ることは避けられない。
われわれはこれからも出口の見えない「テロとの戦い」を続けるのか。そして、日本はそこに全面的にコミットしていく覚悟があるのか。それともテロの背景に目を向け、その解決に本気で踏み出すのか。テロとの戦いを描いた映画から見えてくるさまざまな問題を、ゲストのピーター・バラカン氏とともにジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。