結局国葬の何が問題なのか
東京都立大学法学部教授
1980年神奈川県生まれ。2003年東京大学法学部卒業。同大学法学政治学研究科助手を経て06年より現職。著書に『テレビが伝えない憲法の話』、『憲法の創造力』、『憲法の急所』など。共著に『未完の憲法』など。
12月14日には衆院選挙と併せて最高裁判所裁判官の国民審査が実施される。マル激では恒例となった最高裁国民審査特集を今回もお送りする。
今回の総選挙は自民党が政権に返り咲いた2012年の総選挙から2年しか経っていないため、国民審査の対象となる裁判官も5人にとどまり、評価の対象となる判決や決定の数も限られる。とは言え、その中には一票の格差を巡る判決が2回あるほか、婚外子の相続差別違憲訴訟、沖縄密約文書開示請求訴訟、ヘイトスピーチ賠償訴訟など、日本の針路に関わる重要な判決や決定が含まれる。有権者はそれらの判決に対する各裁判官の立場を念頭においた上で、各裁判官に対する評価を決めることが期待される。
今回審査の対象となる裁判官は弁護士出身の鬼丸かおる氏と木内道祥氏、元内閣法制局長官の山本庸幸氏、検察出身の池上政幸氏、そして裁判官出身の山崎敏充の5人。5人全員が参加した審理としては今年11月26日に判決が出た参議院の一票の格差裁判がある。この判決では今回の審査対象の5人の立場もくっきりと分かれた。山崎、池上の裁判官出身と検察出身の2人の裁判官が、4.77倍の格差があった2013年7月の参院選を合憲(4.77倍の格差そのものは違憲な状態だが、それを修正するための十分な時間が与えられていたとは言えないとの理由から選挙は合憲と判断)、鬼丸、木内の2人の弁護士出身の裁判官が選挙は違憲だが無効とまではいえない、元内閣法制局長官の山本氏が違憲であり、なおかつ選挙も無効とすべきとの立場をとった。15人の全裁判官が参加する大法廷で下された決定は、山崎、池上氏らを含む11人が違憲状態(=合憲)とするにとどまり、それが最高裁の多数意見となっていた。
制度としては特定の裁判官に投票数の過半数が☓印をつけない限り裁判官が罷免されることはない。そのため、現実的に国民審査の結果、裁判感が罷免される可能性は皆無に近い。現に毎回☓印をつけられる「不信任率」は全国平均で7.5%前後にとどまる。これが50%を超えなければ罷免されることはないというのがこの制度だ。
しかし、基地問題や日米安保をめぐる最高裁判決に対する不満が強い沖縄県では不信任率が13%を超えるなど、かなりの地域差があるのも事実だ。また、最近の審査では、一票の価値裁判で合憲の判決を下した裁判官の不信任率が他より相対的に高くなるなど、明らかに国民の厳しい目が最高裁にも注がれるようになっている。
最高裁判所の裁判官については、任命過程が公開されていないため、どのような過程を経て、そのような理由でそれぞれの裁判官が任命されたのがが、国民からは全く見えないようになっている。しかも、国民審査を受ける裁判官は前回の総選挙以降に任命された裁判官に限られているため、必ずしも多くの審理に関わっていない裁判官を国民は審査しなければならない。次の審査は10年後だが、最高裁の判事はほぼ例外なく60歳以上で任命され、最高裁の定年は70歳であるため、事実上、最高裁の裁判官にとって就任直後の国民審査が国民にとっては唯一の参加機会となる。憲法解釈という重大な権限を持つ最高裁の裁判官に対して、そしてそのような裁判官を任命した内閣に対して、国民が影響力を行使できるのは国民審査しかない。
過去2年間の主要な最高裁判決を取り上げた上で、審査の対象となる5裁判官の意見を検証しながら、ゲストの木村草太氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。