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2013年11月09日公開

われわれは遠隔操作ウイルス事件を正しく裁けるか

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第656回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2020年01月01日00時00分
(終了しました)

ゲスト

東京大学生産技術研究所准教授

1969年大阪府生まれ。92年東京大学工学部卒業。97年東京大学大学院工学系研究科電子工学専攻博士課程修了。東京大学生産技術研究所講師などを経て2002年より現職。工学博士。日本セキュリティ・マネジメント学会理事。共著に『情報セキュリティ概論』。

概要

 昨年の6月から9月にかけて、掲示版や自治体のウェブサイトなどに殺人を予告する書き込みなどが行われた事件では、逮捕された4人の被疑者のパソコンがIPアドレスを辿って遠隔操作されていたことが後に明らかになり、誤認逮捕だったことがわかった。その後、犯人と思しき人物から報道機関などに犯行の謎解きを意図するかのようなメールが相次いで届き、警察はほどなく一連の事件の真犯人として、片山祐輔氏を逮捕する。ところが、片山氏は犯行を全面的に否認し、片山氏の使用していたパソコンからも遠隔操作ウイルスが見つかったことで、果たして片山氏が本当に犯人なのか、それとも片山氏もまた誤認逮捕された4人と同様に遠隔操作の被害者だったのかが、大きな関心を呼んでいる。

 この事件は「遠隔操作ウイルス事件」と呼ばれ、来年早々にも公判が始まる予定だが、公判では片山氏が犯人であるか否かをめぐって、高度なコンピュータ・プログラミングやネットセキュリティに関する証拠が提出され、争われることになる。誤認逮捕された4人については、彼らのパソコンから遠隔操作ウイルスが見つかったことで、彼らが実は被害者だったことが証明された。ところが、片山氏の場合、遠隔操作ウイルスが見つかったことが、氏が犯人だったことの証拠とされているのだ。

 今回の事件では犯人と思しき人物から届いた一連のメールに書かれていた行動と、片山氏が実際にとった行動が逐一一致していた。従来の常識からすれば、これだけ行動が一致すれば、片山氏が犯人であることに疑いの余地はないところだが、片山氏のパソコンが乗っ取られていたとすれば、がらりと話は変わってくる。真犯人は乗っ取った片山氏のパソコンを通じて片山氏の行動を逐一察知することで、あたかも片山氏が犯人であるかのようなストーリーを仕立て上げることも可能だからだ。

 恐らく公判では、情報セキュリティの専門家らが証人に立ち、片山氏のパソコンから見つかった遠隔操作ウイルスが、片山氏自身が作成したものなのか、それとも何者かが片山氏のパソコンを乗っ取っていたことの証拠なのかが大きな争点となるだろう。もし片山氏のパソコンが乗っ取られていたことが証明されれば、その犯人は片山氏の行動に合わせてその他の状況証拠を仕込むことが可能だったことも裏付けられるからだ。

 しかし、いざ裁判となった時、情報コンピュータプログラミングやセキュリティの専門家らの証言を、果たして裁判官が正しく理解し、正当な裁きをすることができるのだろうか。専門的な知識を持たない人間が、理解不足ゆえに犯人ではない人間を犯人だと断定してしまったり、あるいはその逆のことが起きる恐れはないのだろうか。

 これはコンピュータ犯罪に限ったことではない。DNA鑑定や高度な測定器などを用いた鑑定技術が刑事司法にも導入され、犯人を特定する能力は飛躍的に上がっている。しかし、仮に鑑定そのものが正確無比であっても、鑑定される証拠の採取やその評価は人間が行うことになる。そもそも何を鑑定すべきかの判断も人間が決めていることなのだ。

 ところが、一旦、高度技術を用いた鑑定が行われると、公判で鑑定の結果に抗うのが難しくなる傾向があることは否めない。それは裁判官や裁判員はもとより、弁護側や検察官までもが、鑑定に用いられた技術の意味を十分正確に理解できていないことに起因する面があるからだ。

 既に死刑が確定している和歌山カレー事件では、事件から15年が経った今、唯一の物証とされたヒ素の鑑定結果に重大な疑問が呈されている。鑑定に用いられた大型放射光施設SPring-8の解析結果は正確だったかもしれないが、そこから得られたデータの評価方法に不備があった可能性が指摘されている。それを受けて和歌山カレー事件は、現在再審請求中だ。

 事実関係を正確に理解するためには高度なコンピュータ技術の知識が不可欠となる遠隔操作ウイルス事件も、同様のリスクを孕んでいないだろうか。高度な知識を持つ技術者のみが理解できるデータや言語を用いて片山氏の犯人性の是非について一定の決着が見られたとしても、果たしてそれを裁判官が正しく理解し、判断できるだろうか。仮にその判断が間違っていたり、おかしかった場合、メディアはそれを正しく指摘できるだろうか。これはコンピュータ技術への関心の有無に関わりなく、犯人ではない人間を犯人にしてしまうかどうかが懸かった、民主主義にとってはもっとも基本的な問題なのだ。

 東大生産技術研究所准教授で、情報セキュリティの専門家であるゲストの松浦幹太氏は「サイバー空間もリアル世界と同じで、ひとつの事柄だけで物事を判断できるわけではない。実世界では様々な情報を総合して判断が下される。サイバー空間でもそれは同じだ」と話し、デジタルな証拠も、従来の物証と同じく犯罪を構成するひとつの要素に過ぎないことを十分に踏まえる必要性を訴える。

 遠隔操作ウイルス事件に代表される高度技術の関与する犯罪や裁判とわれわれがどう向き合うべきか、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司がゲストの松浦幹太氏と議論した。

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