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2013年06月15日公開

止まらない八ッ場、止まらないニッポン

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第635回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2020年01月01日00時00分
(終了しました)

ゲスト

1971年東京都生まれ。94年東京大学文学部卒業。96年同大学大学院修士課程修了。社会学博士。日本学術振興会特別研究員、千葉大学准教授、連合王国ケント大学カンタベリー校客員研究員などを経て2009年より現職。著書に『住民投票運動とローカルレジーム - 新潟県巻町と根源的民主主義の細道』など。共著に『平成史』、『環境の社会学』など。

著書

概要

 民主党政権が高らかに「中止」を掲げながら結局は実現しなかった群馬県の八ッ場ダムの本体関連工事の入札が、5月17日、あまり大きく注目されることもなく公告された。7月には業者を選定し、年内にも着工する予定だという。

 八ッ場ダムは民主党政権下で無駄な公共事業の代表例に位置づけられ、民主党のスローガンだった「コンクリートから人へ」の象徴だった。前原誠司国交大臣は一度は八ッ場ダムの建設中止を宣言したが、地元からの強い反対に遭いほどなくそれを撤回。八ッ場ダムの建設工事の継続は民主党政権下の2011年に決定されていた。

 しかし、とは言え、60年以上も前に計画されながら、地元の強い反対運動に遭い、国が反対派を切り崩しながらようやく事業決定に漕ぎ着けた頃にはもう、当初の目的だった利水や治水などの需要はほぼ消滅していた。今回の工事再開の決定は、ダムが必要だからではなく、ここまで話がこじれてしまった以上、無駄であろうが何だろうが、もはやダムを作る以外に選択肢がないという状態に追い込まれた結果だった。

 しかしそれにしても日本という国は、国が一旦やると決めた事業は、何があってもやり遂げられるようになっている。それが今だに変わらない。山本リンダの歌ではないが、止めようにも、どうにも止まらないのだ。長良川河口堰もそうだったし、諫早の干拓事業もそうだった。ある意味で原発もそうだ。

 本来必要のないところに堤高131メートル、幅336メートルのコンクリートの壁がそびえ立ち、自然や遺跡など文化遺産も豊かな吾妻渓谷がダム湖の底に沈む時、総額で5000億円超の税金が浪費され、とてつもない生態系の破壊が起きる。しかし、それがわかっていても、八ッ場ダムの工事は今また再開されようとしている。

 ダム計画が地域社会をずたずたに切り裂いてきた様を子どもの頃から見てきた地元「やまきぼし旅館」の五代目主人樋田省三さんは、「計画に当たっちゃったら、もう、残念でしたと言うしかない。絶対撤回しないから。彼ら(国)は」と、あきらめ顔で語る。樋田さんの旅館もダムの水没予定地にあるが、ダムができるのかできないのか、移転させられるのかどうなのかが決まらないために、建物の改修さえ行えない状態が今も続いているという。

 大規模公共事業が地域社会に与える影響を研究している中央大学教授の中澤秀雄氏は「国側の担当者は2,3年で代わるが住民は一生逃げられない。結局、国策に疲れて受け入れざるを得なくなった」と八ッ場ダム問題の背景を指摘する。

 しかし、それにしてもなぜ日本の公共事業は、その正当性や妥当性を失った後も、止まらないのだろうか。国策だの国家意思だのと言われるが、それは一体誰が決めているものなのか。

 ダムのような大規模公共事業の計画を立てるのは霞ヶ関の中央官僚だ。彼らは霞ヶ関の役所の中で鉛筆を舐めながら、日本全体の水需要などを計算して、彼らなりに良かれと思った事業を提案する。そして国が持つあらゆる手段を使って、それを実現しようとする。それを実現することが彼らの仕事であり、そしてまたそれが日本の国益に適っていると彼らは考える。そして、国は政治学者ホッブスが怪物リバイアサンに喩えるほど強大な権力を持つ。それが駆使されれば、どんなに地元の反対があろうが、どんなに馬鹿げた事業であろうが、最後は押し切られることは必至だ。そしてそれは誰にとっても不幸なことでもある。

 中澤教授は「国」対「地元」の構図が続く限り、その勝負は見えている。国がリバイアサンとしての力をフルに発揮してその意思を貫徹しようとすることは避けられないが、公共事業の主体を国から地方に移管すれば、国が地元の意思を踏みにじってまで事業を無理矢理実現するようなことは起きにくくなるだろうと言う。問題は今その権限を持つ中央官僚と、公共事業推進の自民党政権で、そのような権限の移譲が起きるとは考えにくいことだ。
 中澤氏は「地方には地方の知恵がある。まずは政策決定の課程に地域の意見をどう組み込んでいくか、その仕組み作りが重要だ」と話す。中澤氏が関わった新潟県の旧・巻町(現在は新潟市と合併)での原発建設をめぐる住民投票では、7人の地域住民がキーパーソンになって準備して住民投票を実現した結果、原発建設の阻止に繋がっていったという。

 しかし、日本では巻町のような事例はまだ少ない。なぜ、国策は一旦走り出したら止まらないのか。われわれは、一体いつまで亡霊のような国家意思に振り回され続けるのか。八ッ場ダム問題と原発立地地域の矛盾を取り上げながら、ゲストの中澤秀雄氏とともにジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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