既得権益温存のために歪められる日本のエネルギー政策
自然エネルギー財団事業局長
1964年大分県生まれ。92年原子力資料情報室、2000年環境エネルギー政策研究所副所長、09年駐日英国大使館気候変動政策アドバイザーなどを経て、10年より国際再生可能エネルギー機関(IRENA)のシナリオ&政策・アジアパシフィック地域マネージャー。11年より現職。
1970年愛知県生まれ。2003年パリ第十大学大学院哲学科博士課程修了。哲学博士。東京大学21世紀COE「共生のための国際哲学交流センター」研究員、東京外国語大学非常勤講師などを経て、07年より現職。著書に『ベーシックインカムは究極の社会保障か』『新・現代思想講義—ナショナリズムは悪なのか』、『暴力はいけないことだと誰もがいうけれど』、共著に『没落する文明』など。
原発事故によってエネルギー源を原発に依存することのリスクが広く認識され、ようやく昨年7月に固定価格買取制度(FIT=Feed-in Tariff)が導入されるなど、政府も再生可能エネルギーの推進に本腰を入れ始めているように見える。再エネ推進のカギを握るとされるFITの導入から半年あまり経った今、再エネはどの程度普及したのだろうか。
FITは電力会社に対して、風力や太陽光発電、地熱発電など再生可能な自然エネルギーによって発電された電気を個人や事業者から一定の期間固定価格で買い取ることを義務づける制度。電力会社はその分の費用を、電気料金に上乗せして徴収することになる。電気を利用するすべての人が、月々の電気料金への賦課金という形で、再生可能エネルギーの普及にかかる費用を負担していることになる。再エネの普及が進めば進むほど、少なくとも当面の電気料金は高くなるという、一般のユーザーにとっては痛し痒しの制度という側面も持つが、地球温暖化を加速させる化石燃料や事故が起きれば大変な惨事を招く原子力に変わる新しい自然エネルギーへの期待は大きい。
制度開始から半年、その枠組みは一見うまく機能しているように見える。1kwhあたり42円という高い買い取り価格が設定された太陽光発電を筆頭に、再エネの総発電量は順調に伸びてきているようだ。しかし、新たに政権の座に返り咲いた安倍政権は、民主党政権時代の「革新的エネルギー・環境戦略」はゼロベースで見直し、原発の新規建設についてもエネルギー情勢を踏まえ時間をかけて腰を据えて検討するなど、民主党政権下で一旦は明確になった脱原発・再エネ推進路線を事実上白紙撤回している。現に、茂木経産相が太陽光の買い取り価格の引き下げの意向を明らかにしている。
再エネの買い取り価格を高く設定すれば、その分事業者の参入が進み、再エネのシェアは増えることが期待できる。しかし、高い買い取り価格で発電量が増えれば、その分電気料金への上乗せ額も膨らんでいく。その点が必ずしも十分に理解されないまま高い買い取り価格で再エネの推進が進めば、電気代の高騰を嫌がる一般市民から、再エネ推進に対する異論が出始めることも予想される。
どうやら重要なのは、なぜ再エネを推進すべきなのかという基本的な論点を再確認することにありそうだ。これは、例えば30年後われわれはどのような世界に暮らしているのか、またどのような世界を望んでいるのかなどの問いにもつながる。そして、再エネの推進によって、ぞれぞれどのようなメリットと対価が生じるのか。それを市民一人ひとりが理解した上で、どこまで再エネを増やすべきか、どこまでの負担なら耐えられるのかを判断する必要があるだろう。
日本に再エネは根付くのか。原発事故を受けて、今日本が考えるべきエネルギーの未来ビジョンとはどのようなものなのか。再エネの固定価格買取制度スタートから半年。ここまでの成果と見えてきた課題、そして日本のエネルギー社会のこれからについて、自然エネルギー財団の大林ミカ氏と哲学者の萱野稔人氏とともにジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した