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2011年12月10日公開

内部被曝を避けるために今こそ広島・長崎の教訓を活かそう

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第556回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2020年01月01日00時00分
(終了しました)

ゲスト

1917年広島県生まれ。43年日本大学専門部医学科卒業。44年陸軍軍医学校卒業。軍医として広島陸軍病院に赴任。国立柳井病院(現独立行政法人国立病院機構柳井病院)、西荻窪診療所、医療生協さいたま行田協立診療所、全日本民医連理事、埼玉民医連会長などを経て、2011年より現職。著書に『広島の消えた日—被爆軍医の証言』、共著に『内部被曝の脅威—原爆から劣化ウラン弾まで』など。

著書

司会

概要

 12月6日、大手食品メーカー明治の粉ミルクから1キロあたり最大30.8ベクレルの放射性セシウムが検出された。前週には福島市のコメからもセシウムが検出されており、福島第一原発事故によって放出された放射性物質による食品の汚染の深刻さがあらためて明らかになっている。
 政府はいずれも基準値を下回るため健康には影響はないと繰り返すが、乳児が摂る粉ミルクやわれわれが毎日食するコメの放射能汚染は、それがたとえ基準値以下であっても、真剣に受け止める必要があるだろう。
 特に、食品の放射線基準については、現在の政府の規制値が内部被曝を無視したものであることを念頭に置く必要がある。放射能に汚染された食品を摂取すれば、放射性物質が体内に入る内部被曝が避けられないからだ。言うまでもないが、体内に放射性物質を取り込めば、それが体外に出るまで長期にわたり放射線の被曝を受けることになる。
 自身も広島で被爆した経験を持つ医師の肥田舜太郎氏は、原爆投下直後から広島の被爆者の治療・救援にあたった経験から、福島原発事故でわれわれは内部被曝にもっとも気を付けなければならないと警鐘を鳴らす。
 肥田氏は、広島に原爆が投下された直後こそ、原爆の熱と放射線の直射によって火傷や急性放射線障害を受けた患者の治療に追われたがその後しばらくして、原爆投下後に救援や親類の捜索のために広島や長崎に入ったいわゆる入市者たちの間で、鼻血、下痢、内臓系慢性疾患などの症状を訴える人が続出していることに気がついた。中でも「原爆ぶらぶら病」と呼ばれる、疲れやすく慢性的な倦怠感に見舞われる症状は、放射線の内部被曝が原因と思われるが、どんなに検査しても異常が発見されないため、単なる怠け者であるとみなされ、仕事も続けられず、周囲に理解されないまま多くの患者が苦しんでいたと肥田氏は言う。
 肥田氏が強調する広島、長崎の失敗、そしてその教訓は、直接原爆に被爆しなくても、その後降ってきた放射性物質を体内に取り込むことで、大量の内部被曝者を出してしまったこと。そして内部被曝はその原因が確認できないために、多くの人が長期にわたる原因不明の健康被害に苦しむことになることだと、肥田氏は言う。
 広島、長崎で大量の内部被曝者を出しながら、依然として内部被曝に対する政府や社会の認識が甘い原因として、肥田氏は、戦後、アメリカの圧力によって原爆の被害状況を調査できないような状態を強いられたことを挙げる。アメリカは原爆の被害は機密情報であるとして、患者や医師に対して、それを他人に話したり、論文や写真などの形で記録に残すことを禁じた。さらに、アメリカが設置した調査機関ABCC(原爆傷害調査委員会)は、内部被曝の存在を知りながら、事実を隠蔽し続けたと肥田氏は批判する。
 しかし、米軍の占領下ならいざ知らず、今日にいたっても内部被曝に対する隠蔽体質はあまり変わっていない。そもそも日本の食品の暫定規制値は、原子力を利用する国々が主導するICRP(国際放射線防護委員会)基準に準拠しているため、内部被曝の危険性を軽視、もしくはほとんど無視している。内部被曝の危険性をまともに考慮に入れると、核開発や原発の正当化が難しくなるからだ。
 例えば、チェリノブイリの苦い経験から内部被曝を重視するようになったドイツの放射線防護協会による食品の放射性セシウムの規制値は、乳児・子ども・青少年が4 Bq/kg、成人は8 Bq/kgだが、日本では成人、子供に関係なく200〜500 Bq/kgまで容認されている。内部被曝のリスクをまともに考慮に入れると、今の何十倍、あるいは何百倍の厳しい規制が必要になってしまうのだ。
 しかし、肥田氏はどんなに微量であっても放射性物質は病気を誘発する可能性がゼロではない以上、食品の規制値にこれ以下なら安全という数値は存在しないことを常に念頭に置かなければならないとしたうえで、今の政府の基準や検査体制では内部被曝から子供を守れないと主張する。
 実際、福島原発事故の後、肥田氏のもとに鼻血や下痢を訴える人が出ており、内部被曝の初期症状が現れ始めたのではないかと肥田氏は懸念していると言う。既に今年の6月1日付の東京新聞で、福島県内で鼻血や下痢、倦怠感といった症状が見られる子どもが増えていることが報道されているが、政府はその後、特に内部被曝の基準を強化するなどの対策はとっていない。
 自身が広島で被爆し、その後臨床医として長年にわたり多くの内部被曝の患者を見てきた肥田氏に、福島原発事故を抱えたわれわれが、広島、長崎の苦い経験を活かすために今、考えなければならないことなどを聞いた。(今週はジャーナリストの神保哲生、医療ジャーナリストの藍原寛子両氏の司会でお送りします。)

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