電力供給の8割を再エネで賄うことは可能だ
自然エネルギー財団シニアマネージャー
1972年東京都生まれ。95年東京大学農学部水産学科卒業。97年東京大学海洋研究所修士課程修了。農学博士。東京大学海洋研究所助教を経て2009年から現職。著書に『日本の魚は大丈夫か』、監訳に『魚のいない海』など。
いま、日本の漁業は、2つの大きな危機に瀕している。
一つ目の危機は言うまでもなく、東日本大震災による目の前の危機だ。
三陸の漁業が壊滅的なダメージを受けた上に、福島第一原発事故で大量の放射性物質が海に流れだし、魚、貝、海藻などを広範囲に汚染してしまった。漁船や漁港、水産加工施設などが壊滅的な打撃を受けた岩手、宮城、福島の3県では徐々に復旧作業が進んでいるが、将来の日本の水産業をどうするかについてのグランドデザインが描けていないため、補助金はもっぱら漁船や漁港などのインフラ整備に充てられ、水産業全体の復興の兆しがなかなか見えてこない。
また、放射能汚染については、海洋や魚介類の調査が進んでいないため、今のところどの程度汚染が広がっているかを把握することが困難な状態だ。9月9日に日本原子力研究開発機構が、事故発生以来、海に流出したヨウ素131、セシウム134、セシウム137の総量が、これまでの推定の3倍を超える1万5000テラ・ベクレルにのぼるとの試算を発表しているが、これが今後、汚染された海域で捕獲される魚介類にどのような影響を及ぼすかは、今のところわからない。固唾を飲んで見守るしかない。
しかし、仮に日本の漁業が今回の地震・津波の被害を克服し、放射能汚染を乗り越えることができたとしても、次なる問題が待ち受けている。それが2つ目の危機とも言うべき、日本漁業の構造的な問題だ。
日本の漁業は震災前から衰退の一途を辿ってきた。乱獲による資源の減少が進む中で、漁業の売上は減少し、漁業従事者の高齢化も深刻だ。
日本漁業の再生のための政策提言を行ってきた三重大学の勝川俊雄准教授は、すでに震災前に閉塞状態に陥っていた日本の漁業が、この震災を機に数々の構造問題にメスを入れることができるかどうかが、再生の鍵を握ると指摘する。
震災で壊滅的な打撃を受けた三陸の漁業は、その復旧過程ですでに構造的な問題を露呈していると勝川氏は言う。例えば、復旧のための補助金は漁協の政治力によってもっぱら漁船や漁港などのインフラ整備に充てられ、水産加工や流通業者には資金が下りてこない。そのため、水産加工の拠点だった宮城県では、加工・流通設備の復旧が進まないために、漁船の復旧で魚の水揚げが始まっても、それを買う加工業者がいない状態にある。それもこれも水産業全体をどうするかについてのグランドデザインが無いためだという。
勝川氏はまた、旧来の漁業・水産行政のもとでは日本の漁業が乱獲と安売り競争を繰り返す中で自滅してしまうことが必至だと言う。漁協ごとに縄張りを定め、その中で魚を獲りたいだけ獲らせている現在の漁業法の下では、資源が完全に枯渇するまで乱獲はやまない。資源を育てることをしない限り、日本の漁業は利益があがらず、若い人も入ってこない。持続的な漁業を守るためにはこれまでの漁業・水産行政を転換し、漁獲量を制限した上で、資源を育成する体制を整えない限り、日本の漁業を儲かる産業に転換していくことはできない、と勝川氏は主張する。
魚の放射能汚染の現状を検証した上で、今後、日本の漁業が2つの危機を乗り越えるために必要な改革と、われわれが消費者として考えなければならないことは何かを、勝川氏とともに考えた。(今週は神保哲生、萱野稔人の司会でお送りします。)